中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

一斉風靡した外食チェーンの凋落

 

 

相次ぐ飲食チェーン店の大量閉鎖に、飲食店経営の難しさを感じる。しかし大量の閉店には地域社会経済も混乱することとなるであろう。その原因は何か。

 

1.性急すぎる店舗展開が大量閉店の原因

 

そもそも、急激に店舗を拡大し、成長スピードに管理スピードが追い付かず、収益の源泉である現場が疲弊していた。その結果、店での対応が疎かになり顧客離反が進んでいるようであり、これらが主な閉店原因である。

結局は既存店の前年割れを新規出店で補完しようと態勢が整わない内に出店を急ぎ過ぎたからそうなったのである。

 

また同ブランドでカニバリゼーション(食い合い)を起こすといった無計画な出店戦略も一因である。これらの点は現場と本部をつなぐ連結ピン的役割を果たすはずのマネージャークラスにも問題があるのではと思う。

 

 

2.一斉風靡してもすぐに模倣され競争が泥沼化する外食産業

外食は業態の摸倣が簡単で先発優位性があまりない。みんなで苦労して考えた企画や新業態も追随者に対する障壁を築かなければ、すぐに模倣され虚しいものである。知的所有権など権利取得が難しく、取得しても守れる範囲が限定される外食のビジネスモデルである。

外食では大成功を収めても追随する競合他社に対する参入障壁策を講じていないとすぐ模倣され追い付かれるもの。下手すると自社のビジネスモデルを参考に、それに新たなサービスを付加してくるので、追い抜かれることはよくあることである。

このストアコンセプトの模倣で参入店も増え、市場も一気に成長するが、先発店が多くの利潤を受けることなく、気づけばみんなが疲弊してしまうという業界である。ブルーオーシャンがあっという間にレッドオーシャンになるのだ。

経営資源の乏しい小規模飲食店が新たな業態開発して一斉風靡すると、すぐに外食大手が模倣するが、さすがに資本力で勝る大手はすぐに市場を奪ってしまう。弱小先発店が考案した業態に価値を付加し、また仕組みも上手く確立させ、先発店を追いやることはよくあること。自店の市場位置と競争余地を知り攻勢を図る戦略で、強者ならではの戦略である「同質化戦略」だ。

弱者は、すぐに真似をされるような戦略を安易に仕掛けてはいけない。常に大手の動きを警戒して、自店ならでは価値を提供できる仕組みを確立させ、追随者への参入障壁を構築しなければならない。 一方、強者としては「同質化戦略」が強者の戦略として有効だからといっても、価格の追随には慎重でなければいけない。何故ならば、ライバルが低価格で攻撃をしかけてきて同じ価格戦略で臨むと、それで一番損害を被るのは、シェアが高く売上高がもっとも大きい強者だからである。

したがって、強者としては非価格競争を原則とすべきだが、価格弾力性が高い商品製品の場合には、むしろ積極的に値下げに応ずることが必要となるなど、価格政策には柔軟性が求められる。どんな業界もこのプライシングが栄枯盛衰の決め手なので慎重にしないといけない。

また強者の戦略の中には、「同質化戦略」の一種で「プラグ戦略」というのがある。これは、自分よりも弱者が現実に戦略を仕掛けてくる前に、その弱者がどのような戦略で来るかを、あらかじめ予測して先手を打つものである。弱者が目をつけそうな穴を塞いでしまいつけいる隙をなくす戦略。穴に栓(プラグ)をするという意味でプラグ戦略という。

 

弱者はいきなり大きな市場を狙い、予想される強者の追随に対する参入障壁策を構築できない場合の勢いは一時期的なものに終わる。無謀に強者へ対抗するのは経済合理性から見て得策ではないので、その点を踏まえたニッチ戦略を策定した方が無難であろう。

また顧客のスイッチングコストを高める工夫も必要で、これらは競争上の差別的優位性にもつながる。スイッチングコストとは、顧客が他のブランドに乗り換える場合に顧客にかかる負担や犠牲のことで、金銭的負担ばかりではない。飲食店では今まで通い続けて常連としての店側との良好な関係を放棄することなど、心理的・感情的な不安も含めた負担も含むものである。

 

そもそも業績が前年割れするとすぐ大騒ぎするが、単純に前年をベースに予算設定する店が多いと思う。それらは、この人口減少、競合店の増加といった市場環境の中では無謀である。発想を転換しなければ到達不可能の目標を設定されると従業員達も頑張って達成しようという意欲を喪失することになる悪循環に陥ることになる。

 

3.なりふり構わない人気店の傲慢な経営姿勢

業績不振が顕著となった東証一部上場企業の社長が、直接お客さんに来店を促す告知分を店頭に貼り話題になった事がある。

私は外食業界に長く関与しているが、業績不振だからと言って、今までこんな行動をとった外食企業は記憶にない。自分達の店がなくなれば皆さん困るでしょと言わんばかりの訴えに見て取れる。自分たちの社会の於ける存在感を少し勘違いしているのではないか。

これらは店の従業員も不快だと言っていた。この告知文は店で働く従業員達に、「この状態では店を閉めますよ。仕事を失いたくないなら必死に働きなさい。もっと自分の知り合いを客として来店させなさい」と強要しているようだ。はっきり言って今は仕事はいくらでもあるから、こんな仕打ちをするなら逆効果だと思う。従業員が満足しなければお客様を満足させられる訳がない。

店の危機感をお客にアピールする、このなりふり構わない行動は通常考えられない。お客さんに何を求めているのか。自分達で積極出店しすぎたことが、業績不振の原因の一つでもあるはずで、要は自業自得である。

戦略と管理の一体的推進は経営の原理原則であり、経営力の弱さが問われるだけだ。自分達の失敗で業績不振に陥ったのに、お客さんに何とかしてもらおうとする姿勢には違和感を感じる。 一般的に業績不振の8割は内部要因にあるというのが経営の原則だ。今までの社会貢献をアピールし、これだけ頑張っているのにお客が来なかったら、店を閉めますよと訴えるのは、いかがなものかとも思う。

それよりも積極拡大で露呈した脆弱な運営力を再度見直し整理し、強化した上で、再チャレンジしていってもらいたいものだ。今回の騒動は社長の独善的リーダーシップからなるものか。周辺の人間は誰も止めなかったのだろうか。これほど大規模な組織になれば、社長の暴走をけん制する抑止力的な力が必要なのは当然だとも思う。

普通に商売すればいいのに、やたらと話題性づくりに力を入れた店舗政策だ。本業である料理とサービスの品質を高め、リーズナブルな価格で提供する事をひたすら極めればいいのに、どうも横道にそれる店である。

その不満が口コミ・ネットコミで浸透する速度は早い。この経営の原理原則を徹底して、強化しながら市場を深耕しないと、酷評を地域に浸透させ、自分で自分の首を絞めるだけだ。

 

 

4.外食業界の将来

外食業界は廃業率が非常に高く、1年未満で閉店した割合は34.5%、2年以内で閉店した割合は15.2%。合計すると49.7%となり、約半数の飲食店が2年以内に閉店しているということである。

さらに、開業3年では約7割が廃業し、10年後も営業している飲食店はわずか1割程度と言われている。こうやって、次々と新店舗がオープンする一方、どんどん潰れているのが、飲食業界の実態で新陳代謝が激しいものである。

業態開発に成功して人気店になっても、他店の追随を受けやすい外食。先行者利益を得る期間も短い。模倣されやすく業態の陳腐化サイクルが早いのに、強気で過剰な出店戦略。

歩いて4分にも店があるというコンビニのような自社内競合。その結果、大量閉店を余儀なくされた大手外食チェーン自己資本比率も低下し、財務の安定性が欠けてきたが、現金商売という事業特性からまだ何とか運営できる現状だ。もちろん経営的に資金繰りが苦しくなったらオープン景気による現金集めの為に新規出店を続ける企業もあるのは事実である。

 

自らのビジネスモデルの優位性も過信し、出店すれば儲かると勘違いした傲慢的な経営が身を滅ぼしたのである。自ら、価格はリーズナブルと強調するが、価値を評価しないお客様も増えていたようだ。

それにしても過度なスクラップ&ビルドは開業が比較的に低コストで実現できるとはいえ、社会資源の大きな無駄遣いであることを認識しなければいけない。環境保全と資源保護に配慮した企業経営をしていかなければ一般消費者から見離されるであろう。

 

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