中小企業診断士/行政書士 中村事務所

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牛丼の吉野家の提供価値とは!

牛丼の吉野家に親子丼や唐揚げは必要か?



 1899年、東京・日本橋で牛丼が誕生させ、1971年、日本で最初のチェーン化をスタートさせた牛丼の吉野家。20年前、BSE問題で露呈した単一事業のリスクを回避する為、いろいろなメニューを展開してリスクとリターンの最大化を目指している。

 メニューが多品種化すると経営資源も分散し、単一事業に集中するよりも利益率が低下する。しかし、それでも多様なニーズに対応して店のイメージを刷新しながら挑戦する必要がある。もう20年前に危機的状況に陥って学習したことを商品戦略に反映させている。

カレーや豊富な定食メニュー、焼き鯖を用いた朝食メニュー、鰻、すき焼きなど多岐に渡る品揃え。その中でも、現在、吉野家ファンから人気を博しているのが、唐揚げと親子丼である。

牛肉の仕入れに優位性があり、牛丼のイメージが強い吉野家が導入する鶏肉料理。「餅は餅屋」で、その分野の専門家が最も優秀であると言われる中、鶏肉料理にチャレンジする吉野家。社会が成熟化して、人々のニーズが多様化・高度化してくると、それぞれの専門店に任せるのが最適だとされるが、お客さんの反応はいかがだろうか。時代の波とともに、専門化と総合化が交互に訪れる中で、牛丼の吉野家が販売する親子丼や唐揚げをお客さんは選択してくれるだろうか。その道一筋で、経営資源を集中している専門店の方が、本物の味を堪能できると言う人も多いのではなかろうか。

牛丼専門店が提供する唐揚げより、唐揚げ専門店「からやま」が提供する唐揚げの方が安くて美味しい、親子丼がコア商品である「なか卯」の方が、美味しいというイメージがあるのは確かだ。そういった中で、いくら需要があっても、吉野家が出す親子丼や唐揚げはありだろうか?

 すかいらーくグループの中核業態であるガストが、同じグループの唐揚げ専門店である「から好し」の売れ筋メニューをガストでも販売し、お客さんから好評を得てグループ内のシナジー効果を発揮しているが、それらとは全く異なる。ブランドからの連想としては、牛丼の吉野家というイメージが定着している中で、お客さんが唐揚げや親子丼にどれだけ期待して注文するだろうかである。

 

でも、実際に食べてみたら分かるが、美味しく価格もリーズナブルで、また食べたいと思う唐揚げと親子丼である。牛丼チェーン店のイメージがあり過ぎて、お客さんが他に行くのは勿体ないから、もっとその良さをアピールした方がいいと思うくらいだ。筆者はお奨めする商品である。

今後、商品ポートフォリオの観点から、吉野家のラインナップの中で、成長商品・成熟商品・衰退商品を数値に基づいて見極め、これらの位置づけを、どうするかの判断が必要だ。経営資源を適切に分配し、利益の最大化を目指す取り組みは必須だ。

 

 

 

そもそも吉野家とはどんな外食チェーンか?

 

 

牛丼を日本の食文化に定着させた吉野家の功績!

 

「早い・安い・うまい」の三拍子で成長した牛丼の吉野家。看板商品である牛丼に誇りとプライドを賭け、牛丼業界のリーダーとして絶対的な存在感があった。キャッチフレーズの「早い・安い・うまい」を世間にアピールし、牛丼を日本の食生活に浸透させた立役者でもある

「早い」は、スピーディーに商品提供ができる仕組みが確立されていること。駅前や繁華街の好立地では、ピーク時には客席の滞在時間が10分程度で、1時間に約6回転させた店も多くある。高い客席回転率が店の強みで、これらが儲けの源泉だった。過去には、牛丼の盛り付けには熟練職人の高度な技術が必要だったが、それを今はどんな人でも特殊な(47個の穴がある)おたまを活用し、スピード提供を可能にした。

 

「安い」は牛丼に特化したことで、牛肉の仕入れにおいてスケールメリットを発揮して原価を低減、店員の作業も単純化・標準化し、提供スピードを高め人件費も削減。飲食店で費用の大部分を占めるFL(原価+人件費)コストを抑制した最適なビジネスモデルを確立した。メニューを牛丼に絞って、より多く提供するから習熟度合いが高まり、より早く提供できるのは当然だろう。2000年のデフレ時、280円だった吉野家の牛丼は安さが際立った。(現在は468円税込)。輸入停止前は、主要食材である米国産ショートプレート(ばら肉)は1Kg当たり60円で100g使用し、玉ねぎ、調味料を合わせても約80円の原価で売価300円でも原価28%程度だったようだ。それを高回転で販売していたと考えると、吉野家にとって看板商品であり、ドル箱商品でもあったんだなと思う。

 

「うまい」は、より美味しい牛丼づくりと、その美味しさを維持するための体制が確立されており、美味しい牛丼づくりのノウハウと情熱が吉野家の歴史を物語っている。使用食材の品質や安全は当然のこと、世の中や顧客の嗜好の変化に対しても、変えるものと変えないものを明確にし、顧客に長く愛される牛丼になっていた。


効率経営で外食業界の模範だった吉野家を支えたモノとは!

吉野家は経営効率が高い模範企業として、外食業界で紹介されており、店長の年収の高さは群を抜いていた。そのため、吉野家の経営を見習おうという企業も多かった。店のお昼のピーク時間帯は、大量に来店する客を効率的に捌いており、客席を1時間で6回転させるための効率的な仕組みも確立されていて勉強になった。徹底した事前の段取りと、それを実現するための、ムリ・ムダ・ムラを排除した什器・厨房機器の配置や作業手順、ワンオペを可能にし、スタッフの肉体負担を軽減させた作業動線の短縮化と効率化重視のレイアウトは大いに学びがあったと思う。今も進化を続けており、調理ロボット(味噌汁・ごはん)を効果的に活用し、調理場内の人とロボットの協働体系が確立され、料理提供が更にスムーズになっている。こういった工程分析と作業研究(動作研究と時間研究)から確立された作業の標準化で、安くて美味しい料理を早く提供できるようになったのだ。これらを実現できたのは牛丼という単一事業に特化していたからでもある。

 

 

 

 

吉野家の業績(公式サイトの決算資料より)(百万円)

     2020年2月期  2021年2月期    2022年2月期    2023年2月期   2024年2月期

売上    216,201    170,348    153,601    168,099    187,472

営業利益   3,926           -5,335            2,305             3,434            7,973 

営業利益率(%)1,8          -3,1           1,5               2,0            4,3

 コロナ禍での外食不況の中で、極端な不振に陥ったが、テイクアウトやデリバリーで何とか店を維持してきた。コロナが収束し、外出制限が解除された今、コロナ前(2020年)の売上には及ばないが、売上は回復傾向にある。

現在、吉野家(国内)1,232店、はなまるうどん(国内)416店、グループ総数(海外含む)2,773店を有する。主な海外進出先は、中国北京281店、インドネシア155店となっている。中国への進出が早かったのは米国産牛の輸入停止に伴う代替牛に中国産を検討していたからのようだ。

 

 

 

 

米国産牛肉の輸入停止で経営危機に陥った吉野家!

 

2004年に発生したBSE問題の前は、日本はアメリカにとって最も牛肉を買ってくれる上得意様であった。そのため、米国のパッカーは日本国民の嗜好に合わせた日本仕様で、穀物肥育の牛を輸出してくれていた。その米国産牛が2003年12月24日、アメリカでBSEの疑いのある牛が発見され、日本は即座にアメリカ産牛肉の輸入を停止した。牛丼チェーンでは、牛肉食材のほとんどを米国産牛肉に依存していたため、在庫がなくなったら牛丼が提供できなくなる。関係者は大慌てだったが、どうすることもできず、ただ在庫がなくなる日を沈思黙考するだけしかなかった。結局、吉野家は、2004年2月11日を最後に牛丼の販売を停止、松屋も同月に販売を停止した。吉野家はその後に米国産牛肉の輸入が再開されるまで、メニューから看板メニューの牛丼を復活させなかった。しかし、松屋はいち早く豚丼の販売にシフトし、牛丼(牛めし)も中国産牛肉に切り替え販売した。すき家は、豪州産牛肉を使用して、半年後に牛丼を再復活させた。牛丼御三家と言われながら、牛丼への熱い思いは、歴史の長い吉野家がやはり一番強かったようだ。
 輸入停止になり、牛丼業界は大混乱となった。店では、お客さんに販売する牛肉の確保に奔走したものの、米国産牛にほぼ依存していたため、代替牛の調達が困難になっていた。元々、牛肉では米国産と同じく40%程度あった輸入シェアの豪州産を使用する選択肢もあったが、ハンバーガー店のパテ用に使用する牧草飼育の牛がメインだった為、牛丼には適さず、使用を断念した経緯もある。吉野家の牛丼は穀物肥育のショートプレート(ばら肉)にこだわり、それは米国産牛でないと吉野家の味にできないとの結論から、豪州産を代替牛肉にして牛丼を販売しなかった。そして、牛丼の復活は米国産牛肉の輸入再開まで待つという方針を決め、新メニューの開発の取り組んだのである。しかし、牛丼一筋の吉野家に牛丼に代わる価値ある新メニューの開発は困難で、急遽、取引先や関係企業とと協業しながら、他のメニューを開発販売したが、どれも不評で客離れが進み、経営が弱体化していった。牛丼にこだわり過ぎて、米国産牛の輸入再開の目処を見誤り、対応が後手後手になったことは否めない。単一事業でコア商品の食材が入手困難になれば、店を閉めざるを得ないという脆さが露呈してしまった。

 頑なに米国産牛肉にこだわり、在庫がなくなれば販売停止にした吉野家。牛丼への情熱とプライドを捨てきれず、経営危機に陥り、店の継続に苦労した。すき家や松屋が仕入れ先を柔軟に変更するなど分散仕入れをしてきて対応したのに、吉野家は米国産牛へのこだわりを捨てきれず、米国産の集中仕入れから変更しなかった差が出たものである。

 

 その牛丼への誇りとプライドが軸足を移そうとする新商品開発の足枷にならないか!

 

牛丼一筋だった吉野家の最近は、牛丼を主力にはするものの、牛丼のトッピングも多種多彩で、カレーや鰻、鶏のから揚げや親子丼、吉野家が出すとは思えない焼魚を入れた定食などバリエーション豊かなメニューになっている。牛丼単一経営のリスクから多くのことを学びんだか、朝食メニューも豊富に用意されている。

 吉野家の牛丼には味に深みがあると競合店の関係者も一目置いている。その牛丼をさらにブラッシュアップさせながら、新規顧客を開拓する為に新メニューを提供している。でも、牛丼へのプライドが足枷となり、新商品開発の妨げにならないようにしないといけない。

 

失敗をエネルギーに変えて今後の展開は!

 

飲食店は商品・サービス・快適な雰囲気などトータル商品である。以前の吉野家は、男性客が殆どで殺風景な店内雰囲気だったが、最近は女性向けのメニューを拡充し健康をテーマにした女性向きの牛丼も販売中している。そういった品揃えが功を奏し、女性が一人で来店しても違和感がないなど女性客の誘致にも成功した。女性が集まれば男性までも集まってくるといった効果も出ているそうだ。吉野家は黒と白を基調としたシックな外観や店内装飾品を一新する店の出現など、確実に雰囲気が明るくなっている。落ち着いて食べられると顧客満足度も高い。ロードサイドには、ドライブスルーを併設した店舗もあり、収益機会も多様化させている。 そうやって中長期的視野に基づき、新たな経営戦略で市場シェアの拡大に奔走しているようだ。今後も食を通じて新たな提案をして頂き、吉野家のさらなる飛躍に期待したい。

 

廃業する個人ラーメン店が増える中、店舗数を増やす丸源ラーメンの魅力!

廃業する個人ラーメン店が増える中、店舗数を増やす丸源ラーメンの魅力!

今や日本人の国民食とまで言われるようになっており、昔から根強い人気を誇るラーメン。多くの国民に愛されるラーメンを提供するラーメン店だが、日本人の食生活に欠かせないラーメンだけに外食だけではなく、食品スーパーやコンビニなどあらゆる小売店で販売される中食・内食マーケットとの異業種間競争も激しい。

 

ラーメン店は、独立志向の高い人の開業の選択肢や趣味と実益を生かして開業する定年退職者の受け皿にもなっている。しかし、いくら好きでもそれを生活するための手段として事業化するラーメン店の経営は違う。簡単に開業できそうに見えても、そう簡単ではないのが、倒産件数に如実に表れている。

 

 

帝国データバンクによると、ラーメン店は全国に1万8000店舗あり、需要は6000億円市場と推計されるが需要のわりに争う店が多く競合店がひしめくために、なかなか値上げができず、ラーメン業界には独自のデフレが推進されている。ラーメン店の倒産理由のうち、多くを占めるのが「競合店との競争激化」だった。

 

そのラーメン店、約1万8000店舗のうち約半数が個人店(経済産業省の経済センサス活動調査)であるとの事。出店したい業態として人気なラーメン店は、新規参入の障壁が他業態に比べ初期投資額が低い半面、商圏内での同業店舗の乱立で同業者競争が激しく、また、他業態店との競争などで限られたパイの奪い合いが激しくレッドオーシャン化が進みやすいのである。そのため、味で差別化を図ろうと店は努力するが、お客さんになかなか受け入れてもらえず、価格を安くしたり、割引券など各種クーポン券を積極的に渡して集客しようとするので、結果的に低価格戦略による消耗戦を強いられ、淘汰されるのがよくあるパターンである。

 

最近はインスタグラムなどSNSを駆使して情報を発信する店も多く、店のファン拡大に努める店も多く、また、海外での認知度も高まったことでインバウンド客も獲得するなど追い風が吹きつつあるラーメン業界。成熟経済の日本の中で業態の陳腐化サイクルが短い外食業態の中で、ラーメンは特に「鮮魚系」「つけ麺」など、トレンド変化が著しいく、新たな味と共に次々にオープンする新規出店者との生き残り競争が激化している状態。

 

また、需要や競争の実態など厳しい外部環境だけでなく、内部環境から見ても採算をとるのが厳しい状況に陥るなど費用の圧迫が著しい状態だ。幅広い層から愛されているラーメンだが、食材・光熱費の高騰や人手不足・賃金の上昇などが影響し、倒産する店が増えている。スープづくりには欠かせない豚肉や鶏肉・ガラなどの食材の高騰に円安も加わり、エネルギーコストの負担も大きい。ラーメン店は特に一日中スープを炊くのでガス料金の値上がりは相当に苦しいだろう。

 

 

資本金や従業員数の少ない個人企業のラーメン店の存続が厳しく、物価上昇などの状況が変わらなければ、今後もさらに倒産件数の増加が予測される。

 

 せっかくコロナが収束し、人流が復活し、インバウンド効果で外国人旅行者も増えてきている中、日本のラーメンは外国人旅行者にも人気で需要は伸びているのに、供給側の要因でその恩恵を享受できないのは残念なことであり、もったいない話だ。ちなみに、観光庁の訪日外国人消費動向調査(2023年7~9月期)によれば、訪日客が日本滞在中に行ったことでは、「外食」が首位であった。その内訳で「1番満足した飲食」(単一回答)は「肉料理(焼肉・すき焼きなど)」が32.2%と首位だったが、その次の2位が「ラーメン」18.8%、だったようだ。

  

人気市場だけに参入業者が多く、競争はさらに激化している。各店とも、価格、個性ある工法、麵やスープに使う独自の食材の工夫、トッピング内容、などで差別化を図っているが、競争優位に立ち店を存続させるのは、店を取り巻く環境が厳しい中で難しそうだ。

 

価格に於いても1000円の壁があり、その制約条件の中で、各店は競いあっているが、このコストプッシュインフレの中でも、ラーメンは1000円未満と内的参照価格(消費者が頭の中で抱いている基準価格)で判断する人がまだ多く、価格を上げられない店が多い。そのため、採算割れする店が増えて、資本力のない個人店の淘汰が進んでいる状態である。

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総店舗数の半分を占めるラーメンチェーン店!

ラーメン店にとっては、水道光熱費の上昇、円安影響も含めた原材料高、人手不足や人件費の高騰は経営を困難にしているが、ブランド力のある店は採算性を重視した値上げを順調に進められて利益を確保している。また、インバウンド客から見れば、海外と比較して安く、円安も加わって高い価値を評価しており、満足度が高いようだ。

順位

チェーン名

2022年7月

2023年7月

増減率(%)

1位

餃子の王将

734

731

-0.4

2位

リンガーハット

586

567

-3.2

3位

日高屋

403

408

+1.2

4位

幸楽苑

404

385

-4.7

5位

大阪王将

359

341

-5.0

6位

Sugakiya

257

258

+0.4

7位

来来亭

250

249

-0.4

8位

天下一品

229

220

-3.9

9

丸源ラーメン

183

196

+7.1

10位

らあめん花月

199

190

-4.5

11

山岡家

168

174

+3.6

12

田所商店

155

162

+4.5

13位

くるまや

148

144

-2.7

14位

魁力屋

121

127

+5.0

14位

町田商店

112

127

+13.4

16位

8番らーめん

116

115

-0.9

17

一風堂

104

106

+1.9

18位

ぎょうざの満州

101

102

+1.0

19位

どさん子ラーメン

97

93

-4.1

20位

一蘭

83

84

+1.2

(出典元:日本ソフト販売株式会社より)

 

丸源ラーメン(9位)の勢いが止まらない!

店舗数が横ばいか減少するチェーン店が多い中、またこの厳しい環境下で丸源ラーメンは店舗数を年々増やしており、196店舗2023年7月時点)を出店している。店舗数の伸びが鈍化しているラーメンチェーン店の中で前年同時期に対して13店舗店を増やしており群を抜いている。この店のラーメンは標準化が普通のチェーン店でありながら、「ずば抜けて特徴がある個性ある味ではなく、安心できる無難な標準味とも一線を画した美味しさのラーメン」だと思う。ラーメン事業の中で、コア店舗である丸源ラーメンはご家族連れ向けに適した業態であり、その丸源ラーメンのコンセプトを踏襲しながらもより高い専門性を打ち出して、ラーメンマニアから家族連れまで幅広い顧客層を標的にした店づくりの二代目丸源、ラーメンマニアをターゲットの選定した小型店の熟成醤油ラーメンきゃべとんなど、新業態の開発も進めている。市場を細分化し、ターゲット客を選定し、その中で自店の立ち位置を明確にするなどマーケティングにも力を入れている。そうやって、市場の棲み分けを行いながら新たな業態を順次投入している。

 

筆者が訪問し、丸源ラーメンの採算を推計すると、ランチ時の1人客が座るカウンター席の回転率を計算すると2.5回転であった。この店は料理提供も早く、25分間隔でお客さんが入れ替わる。粗利益も十分確保しているような価格設定になっており、これだけ効率的(粗利益×客席回転率)に入ると、儲かるだろう。人員も機会損失を回避することを重視したシフト管理になっており、昼のピーク時はキッチン5人ホール5人と万全な体制で溢れるお客さんを捌いている。働いているスタッフさんも元気で感心した。こんな感じで儲かる仕組みができていれば、収益性・成長性・将来性があるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

追随する丸千代山岡家(11位)、田所商店(12位)一風堂(17位)の勢いも著しい

丸千代山岡家は1980年お弁当屋のフランチャイズとして開業し、一年間ノウハウを習得したのち、直営店を展開。1988年ラーメン店の山岡家をオープンし、確実の店舗数を増やし今は185店舗(2024年4月時点)を展開している。セントラルキッチンを持たず、各店舗でスープを仕込んでいる。店舗立地は主要国道沿いの大型駐車場を併設した店舗が中心となり、新規客を常連化し、固定化させて絶対的な支持客を確保し顧客基盤が盤石である。それらリピーターの多さに強みがあるそうだ。年商264億円、経常利益21億円、経常利益率8%を達成し、過去最高を更新するなど業績を伸長させている。

一風堂は1985年に福岡県福岡市中央区大名に最初のラーメン店「博多 一風堂」をオープン。国内の直営店の運営は株式会社 力の源HDが担っている。国内は135店舗、海外は15か国・274店舗(2023年12月時点)を展開している。海外でラーメン人気を押し上げた立役者は「一風堂」と言われているくらい知名度は高い。2024年3月期の連結決算で、純利益は前期比34.3%増の21億8600万円となった。売上高は前期比21.7%増の317億7600万円、営業利益は同44.5%増の32億9600万円、経常利益は同50.3%増の34億8900万円となっている。

 

田所商店(味噌ラーメン専門店)の店舗数も、2019年の109店舗から、コロナ禍に於いても11店、14店、21店、7店 と毎年増加し続け、4年間で48.6%の大幅増と勢いがある。運営は株式会社トライ・インターナショナルが担っており2003年に設立されて、業歴がまだ20年と比較的浅い企業である。事業内容は味噌らーめん専門店の経営・フランチャイズ展開、自社工場での各種味噌・タレ類など、食材および加工食品の製造・販売・輸出入などである。社長の田所史之氏は、ラーメン・居酒屋で起業し、バブル崩壊で挫折した経験を持っている。その反省を踏まえ、「田所商店」で再スタートさせたとのことである。田所氏の実家は味噌の醸造を家業としており、「田所商店」の創業にあたっては「置き味噌」に徹底的にこだわったそうである。チェーン売上高 13,297(百万円)、うち海外売上高 995(百万円)(2022年度実績)となっている。

 

国民食ラーメンは他業種との競争も激しい!

ラーメン店は同業他店だけでなく景気動向により、中食(スーパーやコンビニの総菜麺)・内食(食品スーパー・ドラッグストア)とも戦っている。

物価は上がっても賃金が上がらない人が多い中、国民食でもあるラーメンも大きな変化が生じている。内食・中食・外食と各市場が限られたパイを奪い合う競争が激しくなっている。内食では、価格は高めだが簡単に食べられるカップ麺より、価格が安い袋麺の方が売れている。具材が追加しやすく自分好みのラーメンができるのも人気のようだ。確かにコンビニでカップヌードルが250円で売られ総菜麺も500円~600円で売らているが、高いイメージしかない。時間節約型のお客さんが買うのだろうが、普通はあまり買わないのではと思う。以前はコンビニの中心客は若者だったが、その若者もこの物価高の中で節約志向が浸透し、最近は若者のコンビニ離れが顕著で、近くで買い物を済ませたい足腰の弱い高年齢層のシェアが高まっているようだ。
 中食は食品スーパーやコンビニで持ち帰りレンジでチンすれば食べられる具材もパックされて販売されている。単身世帯の増加で惣菜市場の拡大に連動しているようだ。

外食もテイクアウトで持ち帰って食べる人が多く、コロナ収束後も一定程度の割合で定着しているようだ。ラーメン店の倒産が増えているが、袋麺も安く美味しいから強敵だ。競争相手は同業ライバル店だけでない。物価高騰と節約志向で外食と内食の競争が激しくなる。

ちなみにラーメンチェーン店売上で首位は餃子の王将である。個人経営のラーメン店は過小資本のために、人通りがそれほど多くない2等立地の狭小店舗に出店するパターンが多い。客席回転率あ上げる時間帯は別として、ラーメンだけでなく、ビールや唐揚げなど単価を上げる努力が必要であろう。お酒を飲んだ後の締めで活用されるパターンが多いが、一軒目の需要を狙って単品メニューや酒類の充実を図り可能性を探るのも、その立地や顧客のポテンシャルを分析し施策に反映させるのも一つの手であろう。

 

商品で差別化が困難なら価格を下げて集客力を高める店が多いのは仕方ない判断でもある。今は物価高などで採算が取れないから、段階的に価格を上げて客の動向を見るが、競争が激しいから、顧客が他店に行くのではないかと心配し、なかなか上げられないようである。

価格決定要因には、①コストプラス法②需要志向的価格決定法③競争志向的価格決定法がある。コストプラス法のようにかかった費用に自店の利益を加えて売価にすれば簡単で赤字になる事はないが、そう単純に行く話ではなく、お客さんは価格に敏感だから、プライシングは難しい。特に今のように賃金上昇が物価高騰に追いついていかない経済状況では、需要志向や競争価格志向が価格決定要因に大きく影響するものである。

 

 最近、近くでラーメン店を開業する準備をしているご夫婦に遭遇した。ご夫婦がお互いに好きなラーメンを実際にやってみようと、退職金を元手に居抜き店舗を賃借し開業するらしい。ずっと会社勤めをしていて飲食店の経営経験がなく、美味しいラーメン作りの為に繁盛店に修行することなく、自らが食べ歩きで蓄積した各人気店の味を模倣しながら融合した独自のラーメンを開発して開業するとの事。この大胆な行動に驚きである。廃業が多く費用構造的にも逆風が吹くラーメン業界の中、この挑戦は無謀すぎないかとお話ししたが、頑張ると言っておられたので、温かく見守るしかないが何とか頑張って食べログでも高評価の店になっていたので再度驚いたもの。 

 ラーメン店は比較的簡単に開業できると思う人が多いし、また、素人でも趣味の延長で経営が可能と思いがちなので、ラーメン店を開業したい考える人が増えている。定年して、会社人生を終えたサラリーマンが、人生100年時代まで、たっぷりある時間をどう有意義に過ごすかを考えた時、ラーメン屋でもやるかと単純に考える人もいる。やってみたら、そんなに簡単ではなかったと後悔すると思う。人気店になるのはとても難しく、開業から1年以内に閉店するラーメン店は実に4割、開業から3年以内にはさらに3割近くが閉店に追い込まれているのがラーメン業界の実情だ。 

安易な気持ちで開業する人たちが増え続けることで競合店数は増え続け、多くのラーメン店が価格競争に埋没し、結果的には閉店へと追い込まれている。 開業費用は他の業種業態と比較したら低いかもしれないが、決して安くはない。老後の生活資金として蓄えていたお金を無駄に使わないようにしないといけないと思う。

ラーメンを好きの日本人。ラーメンの食べ歩きをしてSNSに投稿することを趣味にしている人も多くおられる。食べるのが楽しみなのはいいだろうが、店の人の苦労も理解して食べてもらいたいものだ。

 

コスパ最強と評価されるサイゼリヤの成功要因は!

コスパ最強と評価されるサイゼリヤの成功要因は!

今から56年前の1968年、理工系の創業者(現会長)が、八百屋の2階を借りてスタートしたサイゼリヤ。最初の頃は、「お客様にどういう価値を提供したいのか」が曖昧で、コンセプトがブレまくった為に、失敗の連続だったようだが、今では誰もが知る約1,500店舗を有するコスパ最強のイタリアレストランチェーンにまで成長した。

その成功要因を見ていきたいと思う。

 

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サイゼリヤは1,000円あればお腹いっぱいになれるコスパ最強の店とお客さんから評価されている。ミラノ風ドリアやスパゲティなども人気だが、お奨めはハンバーグで、400円(税込)と驚きの価格である。ライス(中)をつけても550円(税込)で、一人暮らしなら、スーパーで食材を買って家で作るより、サイゼリヤでテイクアウトした方が時間や調理負担を考えても、経済的だろう。牛肉100%、付け合わせは目玉焼き、コーン、ポテトでこの価格とは、物価高などいろいろな要因で値上げが回避できない状況にある外食業界で、信じ難い価格である。

 

どうすればこの価格で提供できるか!

 

それは創業者がチェーンストア理論をベースに、将来の変化を科学・分析することで店を柔軟に適合させていくという考えの上で、最適なビジネスモデルを確立したからだ。外食他社のように複数の業態を持ち管理する「ブランド・ポートフォリオ戦略」からは一線を画し、単一業態に一点集中し、改善を重ねて確立させた効率的・効果的な仕組みである。

 

衣料品業界で有名なSPA(製造小売り:商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合したビジネスモデル)のように、サイゼリヤは外食業において製造直販業を目指している。自ら商品開発~食材の生産~加工~配送まで一貫して行い、生産と販売のリズムを一体化させ、高品質と低価格販売を両立させるのである。

これらの最大のメリットは、品質と価格を自社で管理統制できる点である。中間に様々な事業者を介入させると、その分だけ意思疎通が難しくコストも膨らんでくる。それらを排除し整理することで、高品質で低価格の商品がスムーズに提供できるのである。自ら産地に赴き、素材の開発、素材の採り方、保管の仕方、加工の仕方、輸送の仕方に至るまで、すべての工程に踏み入り、品質の向上とムダの削減に取り組んでいるようだ。

 

 

 

サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術

サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術

  • 作者:堀埜一成
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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100%直営店だから実現できる合理的基盤!

 

サイゼリヤでそれらを効果的に管理統制する為に、「計画生産」に取り組んでいるが、これらが実現できるのは、①約1,500店の総てが直営店舗であり、これにより日々の商品販売のデータや客数動向をリアルタイムで管理することが可能、②40年以上主力となる基本商品を変えずに販売できており、辛味チキン・サラダ・ミラノ風ドリア・ハンバーグといった主力商品があることである。40年以上売り続けている間に専用農場・専用工場を持てるようになり、販売実績を積み上げることでさらに進化させている。最適な原料を使い、美味しさを磨き上げることを課題に日々改善に取り組み、その結果、顧客に支持されるロングセラー商品を多く出しているのである。

自社農場での種や土壌・栽培方法の開発研究、ソースやハンバーグ加工の自社工場の運営、自社工場からの毎日配送など、素材開発から加工機能・製造機能を自社で保有し管理統制しているサイゼリヤ。(HPより一部引用)

 

 品揃えに於いても、むやみに増やさず、定期的に季節折々の企画メニューでお客さんの来店を促すなど、身の丈にあった商品開発を心がけているようだ。

 

サイゼリヤの現状:増える海外店舗数と国内客数はコロナ前まで回復!

 

現在、国内店舗数は1,055店舗、海外店舗数は485店舗で、海外の店舗数比率は31.5%(23年8月期)である。

売上は120,482(百万)前年比119,1%・客数151,589(千人)前年比116,8%・客単価795円・前年比102,1%である。ちなみに、海外の客単価は日本より高く850円である。

国内の損益状況(2023年8月期)は、

売上     120,482

原価          51,494(42,7%)

粗利益       68,988(57,3%)

販管費       70,479(58,5%)

営業利益   -1,491

(単位は百万)

 

となっており、国内の本業の儲けである営業利益は、-1,491(百万円)の赤字となっている。この海外事業の黒字に国内事業が助けられているのは周知の事実である。もちろん、国内事業のスケールメリットや最適な仕組みの確立があるから、海外の黒字が実現できている点もある。

 

 コロナ前の実績(2019年)では、6,1%の営業利益率が確保できているなど収益構造は盤石だった。直近では客数もコロナ前の110%と回復しており、これから、正常運転に戻れば、国内事業の黒字化は期待できるだろう。

 財務状態はコロナ前(2019年)と比較すると、自己資本比率は14%低下しているが、63,5%と、盤石で経営の安定性は問題はない。

 

円安・物価高で外食業界を取り巻く環境は厳しい!

 

長く続いたデフレで値下げは得意だが、値上げに慣れていなかった飲食店。物価高の中、メニュー改訂をきっかけに、さりげなく値上げする店も多くなっている。

 中にはデフレで、なかなか値上げができなかった店がこれを機会に便乗値上げする動きもある。価格は据え置くが、クーポン券の割引率を低くしたりと、どの店も売上と利益を確保するのに苦労しているようだ。何でもかんでも値上がりする消費環境に、感覚が慣れてしまったり諦めたりする消費者も多い。

飲食店も最初の頃は、値上げすると客が離れるとのことで、周辺の店の価格動向を注視していたが、最近は動きが活発で、もう生き残りの為に背に腹は代えられぬと、当然のように値上げする店が多くなっている。

 店によっては、お客さんに「今までが安すぎたんや」と理解を示してもらえる店もあるが、そういう店ばかりではない。お客さんが値上げする価値なしと顧客離反が著しい店もある。やはり営業姿勢など普段の行いが大切で、価格変更が栄枯盛衰の分岐点になっており、その店の真価も問われている。

 

値上げする店が相次ぐ中で、サイゼリヤは値上げしない宣言!

でも海外は値上げしている。その理由は?

コロナが収束し、人流が復活して外食にお客さんが戻りつつあるのに、円安による仕入れ食材の高騰・物価高騰であらゆるコストの上昇・人手不足と賃金上昇・エネルギーコストの上昇など、様々な要因で外食産業を取り巻く環境に更なる逆風が吹いている。

 

 顧客の側も値上げに不満の声を上げるというより、仕方ないというムードが漂っている。

やむを得ず、各店が値上げしている中、「値上げしない」宣言をしてくれたサイゼリヤの姿勢を多くのお客さんは評価している。

 しかし、 サイゼリヤは、国内では値上げをしない宣言をしたが、アジアなど海外では、機動的で柔軟な価格政策をし、客単価も国内の795円より55円高い850円となっている。

 その理由は、中国では賃金の上昇が続き、値上げを行っても、「リーズナブルなイタリアン」として認識されており、客数も伸びているからだと社長は説明する。一方で、日本国内では、賃金が伸びておらず、名目賃金が上がっても実質賃金は上がっていないから、値上げを行えないとのことである。

 

徹底した合理化を推進し、値上げを回避したサイゼリヤのオペレーション!

 

 あらゆるコストが値上がりしているのは、どこも同じ条件だが、業務プロセスを日々改善して低価格を維持してくれるサイゼリヤ。

 

 サイゼリヤの取締役は12人の中で8人が理科系大学出身だそうで、合理化に向けた仕組みの確立はお手の物であろう。  この点は、店内オペレーションを見たらよく分かる。サイゼリヤは、外食を真に産業化するために、店舗作業を数値化して分析・工程改善を行うことにより、“ムダ・ムラ・ムリ”を減らし、作業負担の軽減化を図っている。

 

 店舗での接客や調理作業などは個人の技能に頼りがち。しかし、個人店では仕方ないかもしれないが、多店舗展開する外食チェーンではそうはいかない。ローコストオペレーションの確立にはコックレスが必須条件となる。その為には、習熟度合いが低いアルバイトでも、標準化した作業が可能になるためのマニュアルに基づく運営が必要。 サイゼリヤでは数値化しにくい店舗での作業を、IE(生産工学)の技術の考え方を用いて数値化しており、個人の技能に頼らなくても、誰もが簡単に、かつ素早く作業をマスターできるように、作業を単純化・標準化させている。

  店に行けば気づくと思うが、少ない人数で多くのお客さんを捌いており、生産性向上に向け、IEに基づき、徹底した工程分析や動作研究などから、導き出された効率的なオペレーションを確立しているようだ。 

サイゼリヤはトレイを使わずにバッシングをしている。これには客から見ると賛否両論があるが、これもマニュアルで細かく決められている。お皿やグラスの持ち方や下げ方を周知徹底させているようだ。料理皿が手で持ちやすく工夫されており、お客さんが帰った後にまとめてバッシング(片付け)するのではなく、中間バッシングを促して、お客さんが快適に時間を過ごせるように、卓上を整理させている。料理を提供したら終わりではなく、常に客席への気配りを求めているようだ。

繁忙時と閑散時の固定作業と変動作業も細かくマニュアル化されており、時間帯責任者にとって、スタッフの作業管理が容易になっているようだ。

 

少人数でも対応できる仕組みの確立で人時生産性を向上!

来客数が1日平均400人、客単価795円のサイゼリヤ。ランチもディナーも、キッチン・ホール合わせて5~6人程度が配置され、ピークの波はホールからキッチンに流れるから、その都度、ホールからキッチンに応援に行くなど、スクランブル体制で対応している。繁忙時の週末はそれぞれ1人追加されるようだ。それらは各自に合理的な分業がされ、作業手順や作業動線などで高い効率性が仕組み化されているから、最小限の人数で無理なく客を捌けるのである。キッチンとホールの人数比率はセントラルキッチンを有するチェーン店と同様にキッチン45%・ホール55%の割合になっている。 

 

 飲食店は人の良し悪しで業績の差が出るもの。サイゼリヤは仕組みや作業手順が明確だから、誰でも新人に教育できるし、新人も覚えやすいから、即戦力化に時間を要さないのが特徴でもある。 アルバイトがなかなか定着せず、入れ替わりが激しい中で、新人に教える煩わしさが付きまとうが、その解消策にもなる。アルバイト中心の体制だが、みんなやりがいを持ってイキイキと働いている。学生さんにとって、賄がメニューの半額で食べられるというのも魅力のようだ。

 

 また、店舗間でスタッフを融通する際も、どの店にヘルプで行っても同じ作業と店内レイアウトだから、容易に作業ができるのはチェーンのメリットであろう。

 

飲食DXを進めるチェーン店が多い中、人によるアナログ対応で差別化を図る!

 

最近のファミレスでお客さんの注文は、タブレット端末などデジタル化が当然になっているが、サイゼリヤは紙による注文方式(客がメニュー番号を記入)にしている。

これは、注文時間の短縮化・オーダーミスの防止などで業務の効率化に貢献しているからである。従業員がお客さんから直接、注文を伺う時のやり取りに要する時間はけっこうかかるし、従業員の聞き間違いやお客さんの言い間違いから発生する無駄やトラブルはなくした方がいいから、紙注文を採用しているようだ。

付加価値額を高く頂戴する飲食店にとって、顧客との最低限の接客は必要であり、最後の接客機会である会計もセルフではなく人での対応である。

 

サイゼリヤは低価格を維持する為に経費は徹底して抑制!

アプリもクーポンもなし!

 

 多くの外食チェーンが、アプリやクーポンで集客力の強化と顧客の囲い込みを図っているが、サイゼリヤは一切そういうことをしない。広告を出さない、クーポン券も出さないのでも有名で、支払いも現金払いが多く、クレジットカードの取り扱いを始めたのも日が浅い。これだけ安いから、クーポン券やその他で店が費用負担が大きくなるようなことまで要求したら厚かましい。過剰な要求をして、サイゼリヤが存続できなくなる方が、客としては損失が大きいだろう。

 

 お客さんが価値を認めない無駄をとことん削って安く美味しいイタリア料理を提供してくれるサイゼリヤ。人件費や物価などあらゆる経費が高騰し、利益を出せない外食企業が多い中で、顧客から絶対的な支持を受ける経営手法はさすがであり、今後も更なる成長を期待したい。

 

 

今の子供たちは寿司と言ったら回転寿司しか知らない!

成長著しい回転寿司市場!

 

今の子供たちは寿司と言ったら回転寿司しか知らない!

 

 

回転寿司の歴史!

20世紀に誕生し、日本の食文化の一つに挙げられるようになった回転寿司。そのルーツは1958年にオープンした東大阪市布施の廻る元禄寿司が発祥である。高級な食事であった寿司を手軽な大衆食にし、回転寿司の基礎を築きあげた功績は大きい。日本が高度成長期で町全体が活気づいている時、立ち食い寿司の元禄寿司にも大勢の客が来店し、この機会に高級食だった寿司をより多くの人に食べて頂きたいとの強い思いから、一皿20円というお手頃価格に設定し提供した。

しかし、客は殺到するが深刻な人員不足により寿司の提供が困難となり、社長は頭を抱えた。ある日、たまたまビール工場を見学し、ベルトコンベアで運ばれてくるビールを見て、同じように寿司をレーンの上で回すことを着想したとの事である。

10年の試行錯誤を経て回転寿司の原型、コンベア旋回式食事台を実用化できたそうだ。その結果、人手不足の解決策だけでなく、お寿司が回るという新たな娯楽を外食文化にもたらしたそうである。

1978年に実用新案の権利が切れると、今の大手資本などによる新規参入が相次ぎ競争が激化。回転寿司の急速な成長に伴い、今の子供達には、寿司といえば回転寿司しか知らないほどの存在になった。

元禄産業は飲食店の名称として「まわる」「廻る」「回転」などを商標登録しており、後発の他店は、回転寿司の名称を利用できない状況が続いていたが、1997年に元禄産業は飲食店における回転の使用を開放し、回転寿司市場の拡大に寄与している。

最近では、複数の回転寿司チェーン店において、スシロー迷惑動画事件のような迷惑行為が相次ぎ社会問題化し、加えてフードロス問題対策として、回転レーンによる商品提供を廃止し、客による好きな寿司を好きなだけタッチパネルで注文するといった提供方法が定着している。

海外出店分も含めると1兆円市場に迫る回転寿司。

厨房に調理ロボット等の機械を導入し、寿司職人未経験者でも調理できることから、基本一皿120円など低価格店を中心に品数を増やしてきた回転寿司チェーン。売価は均一価格ではあるが、原価は均一ではない為に原価率70%もあれば20%もあり、総原価率で40%~50%程度になっているようだ。

 

ちなみに、スシローが看板商品として力を入れるマグロは60%を超え、こればかり食べられると原価的には厳しいそうである。そのスシローの原価は50%との事である。各店が、原価率の異なる商品をトータルで管理し、利益を創出する為に、粗利ミックスを有効に活用している。ちなみに客単価は1000円程度になっている。

国内店舗数では、1位のスシロー642店(24年4月時点)。2位はま寿司570店(23年6月時点)、3位くら寿司546店(24年3月時点)となっている。海外も含めた店舗数を見ると、スシローは774店舗中、海外は132店舗で海外比率は14,5%、くら寿司は664店舗中、海外は118店舗で海外比率は17.8%となった。はま寿司の海外展開は台湾に7店舗(2022年12月時点)出店しているだけだったが、コロナ収束後の直近では、香港(23年6月、ジェトロ)中国北京(24年1月、日経新聞)に出店し、日本食への関心が高い中間層の需要の顕在化を狙っているようだ。

 

売上では1位FOOD&LIFE(スシローや京樽など寿司関連グループ1,123店舗)3,017億円(23年9月期)、2位くら寿司2,114億円(23年10月期)3位はゼンショーのはま寿司1,800億円(24年3月期)となっており、上位3社で売上が6,931億円、市場シェア75%を占めており、回転寿司市場を牽引している。4位のカッパ・クリエイト(かっぱ寿司)704億円(23年3月期)、5位元気寿司グループ(回転しない寿司の魚べいと元気寿司)546億円(23年3月期)も追随している。

コロナ収束後の回転寿司の成長は著しく、国内及び、海外出店分まで含めると9,250億円市場にまで規模が拡大されているようだ。

 

グルメ回転寿司の出現で新たな寿司文化が普及!

マーケットシェア12%を占めるグルメ回転寿司。少し高くても、いいものが食べたいといった顧客層とニーズは常に存在し、客単価は1500~2000円程度で原価率は40%程度である。威勢ある板前さんの接客、客の前でマグロなどの解体ショーを実施したりと、商品価値以外の演出などパフォーマンスにも力を入れ、独自性を発揮している。家族客を標的顧客に設定し、アイドル時間の有効活用として豊富なスイーツメニューを目当てに女子高生や女子会を開く若い女性にも顧客層を広げたスシロー・はま寿司・くら寿司など家族客をターゲットにした低価格チェーンに対して、グルメ回転寿司の客層は中高年層が中心だ。旬の食材に職人がひと手間加えた商品を味わえ、かつ回らない本格高級すし店やフレンチ・イタリアンのディナー業態よりはハードルが低い。そんなポジショニングで、グルメ嗜好の客を呼び込んでいるようだ。

 

 

 

 



 

生産性向上に向け、飲食店DXを各店が競う!

現在、人手不足もあり、オペレーションの効率化を課題に、飲食店DXの推進を各店が競っている。予約はスマホ、席案内は店頭に設置してある案内用機械、注文はタッチパネル、料理提供はベルトコンベア、会計は自動計算とセルフレジと、見事までに人に依存しない効率的な運営が構築されており、感心させられる。本来、人間がやる仕事を機械が代替し、人はその分、働く機械のサポートに回り、人件費も抑制して人手不足対策にもなっているようだ。お客さんも現在のスタイルに慣れ親しんで、何の違和感もなく普通に楽しんで食事をされているから相互にメリットがあるようだ。

スシローは提供スピードを高めて客席回転率を高める為、寿司が自動的に最短ルートを流れるシステムから、注文卓に商品が振り分けられる引き込みレーンも独自開発しており、課題の衛生管理も強化されていた。厨房の寿司ロボットなども更に進化させ、ムダをとことん排除し、廃棄ロスや人の有効活用ができており、最新技術を駆使した効率化は高い評価を得ているそうだ。

 

今は原材料高、エネルギーコスト高、円安、人手不足と賃金上昇機運の高まりなどで、飲食店の事業運営には大きな逆風が吹いている。何でも値上がりする環境条件の中でいかに損益分岐点の低い店作りをするかが栄枯盛衰の分岐点になる。

飲食店は材料費や人件費など変動費の割合が60%程度と高く、徹底した管理で利益の出る店にできると思う人が多いが、これらは完全なる変動費ではない。人をモノのように削ったり、低品質の食材を仕入れるのは論外なのである。だから、従業員には金銭的報酬だけでなく、福利厚生にも力を入れ、顧客の満足度だけでなく、従業員のも満足度を上げなければいけない。店は人なりを再認識し、従業員満足=顧客満足を徹底させねばならない。人とロボットとの最適な協働体系を確立し販管費の低減に向け効率的なオペレーションを追求することが肝要である。

 

 

 

 

 

 

 

回転寿司の本道を極める業界首位のスシロー

 

スシローは原価率が50%近くと商品力に強みを持ち、回転寿司の本道を極めるスシローの寿司にお客さんは高い評価をしている。コロナ禍の回転寿司業界で衛生管理に若干の批判があったり、客のイタズラ投稿や景表法違反で逆風が吹いたものの、さすがは商品力のあるスシロー。すぐに再生し首位の座をキープしており、2位以下に差をつけている。頻繁に魅力ある期間限定企画を実施し、ネタも新鮮で大きく顧客満足度が高い。

現在、スシローは日本、韓国、台湾、香港、シンガポール、インドネシア、タイ、中国大陸で事業を展開中。海外の店舗数は、韓国9店舗、台湾38店舗、香港25店舗、シンガポール9店舗、インドネシア1店舗、タイ18店舗、中国大陸36店舗だ(2023年11月末時点)。

 

スシローとの差別化を図るくら寿司!

総店舗数は2位だが国内店舗数は3位のくら寿司。寿司の美味しさは首位のスシローと比較しても遜色はなく寿司以外のメニューもバリエーション豊かである。この店の特徴は、どこよりも増して、衛生管理を強化しており、食の安全性に力を入れていることである。飲食店だから当然のことだと思われるが、費用対効果を考えて、それなりの店があることも事実である。また、お子さんに人気の企画や店内演出でも集客に力を入れている。鮮度くん(寿司カバー)に上部についているQRコードによる製造時間制限管理システムを導入後、長時間レーン上に置かれた寿司を廃棄するシステムも導入。客が皿を投入口(皿カウンター)に入れる事で洗い場まで自動的に回収され、同時に枚数がカウントされ精算される。テーブル席に5皿ごとにカプセルトイの景品が当たる抽選機のびっくらポンも導入し、子供さんに人気で大人でも楽しんでいる。全店舗に店舗支援システムがあり、本部から全店舗を見ることができ本部から運営における援助をすることができる。寿司だけでなく追い鰹醤油らーめん、天丼、うな丼も販売して魅力度を増している。くら寿司も各社と同様に115円均一価格を維持させる為の対策として、粗利益が確保できるらーめん・丼物・デザートなどを積極販売。そして、メニューの拡充を図りながら、粗利ミックスを活用して原価を適切にコントロールしている。

 

追いかけるはま寿司!

外食売上ランキング首位ですき家などを運営するゼンショーが、回転寿司事業への参入を目的として、2002年10月に設立したはま寿司。尚、ゼンショーは、以前、かっぱ寿司やあきんどスシローを傘下としていた時期もあったが、方向性の違いから関係を解消し、独自に設立したはま寿司を展開している。以前、価格競争で他店と差別化を図る為に、寿司全皿平日90円キャンペーンを開始したこともあるが、物価高騰などの理由で2年前に終了した。従業員の負担軽減を目的に、人型ロボット「Pepper」を設置して話題にもなった。メニューは90種類程度で、味噌汁・ラーメン・うどん・ケーキなども提供しており、他店とほぼ同質化しているように見える。

 

回転寿司業界の将来!

 

今後も、上位3チェーン店が競い合って市場を更に拡大することが推察される。そして、独自性を発揮した店が追随していくことになる。各店が成長に向け、①仕入れ力の強化、②魅力ある品揃えの強化、③DXも含めオペレーションの強化、に磨きをかけて、競争優位性を確保するであろう。

 

回転寿司業界を取り巻く環境をよく見ると、地球温暖化や海洋汚染から身近な回転寿司の存続が危ぶまれている現在では、水産資源保全の観点からも、寿司ネタである海産物たちが生きている海を何とかしないといけない。回転寿司は食材である魚のコスト割合が大きく、売上原価で4~5割を占める中で、海水温の上昇や世界的な人口増加、ウクライナ危機などを背景に、漁獲量の減少や魚価格の高騰が、経営を圧迫することが懸念される。SDGsが掲げる目標14「海の豊かさを守ろう」の、健全で生産的な海の実現が肝要である。海産物が獲れなくなってしまったら、回転寿司の存続は困難である。実効性ある対策を講じていかないといけない。

 

しゃぶしゃぶ食べ放題の進化!

 

 

焼肉食べ放題も人気だが、しゃぶしゃぶ食べ放題も人気。

 

昔は、焼肉と同様にしゃぶしゃぶも高級料理的な存在で、家庭で食べる機会は、ほぼなかったと思う。1991年の牛肉の自由化で安価で日本人の嗜好にあった米国産牛が大量に入ってきたことで、それらを扱う外食産業は大きく発展した。そして、以前は高級料理で食べる機会がなかったしゃぶしゃぶが、一般大衆でも食べれるようになったのである。








筆者が属した焼肉チェーンも、それまでは中間所得層をターゲットのニーズに合致した店づくりをしていたが、1995年に将来を見据え、若年層を顧客予備軍として開拓する為にしゃぶしゃぶ食べ放題を1,980円で始めたのである。

人気の情報誌(関西ウォーカー)にも取り上げられ、店は若者を中心に殺到し、長蛇の列だった。ラーメン店などファストフード店と違って、しゃぶしゃぶ食べ放題は2時間の食べ放題だから、2時間も客が席に滞留するのに、それでもお客さんが諦めて帰ることがなく、ずっと待つなど異常な状態だった。

 

老舗焼肉店のブランドを持つ店が、低価格なしゃぶしゃぶ食べ放題を導入したことでお客さんが食べなきゃ損と強い執念を持たれたのであろうが、店内外がパニック状態になり、大変な思いをしたことを記憶している。

 

しゃぶしゃぶ食べ放題が話題になり、牛角を運営するレインズは2000年から、ワンカルビが運営するきんのぶたは2006年から販売を開始し、一気に市場が拡大した。

しかし、筆者の店で提供したその頃の内容は、牛肉が食べ放題だけで、野菜の盛合わせは一回きりの提供という内容だった。だから、野菜などの追加は別料金だったが、それでもお客さんは満足そうであった。焼肉と違いしゃぶしゃぶはお肉をお湯でくぐらせて脂を落とすから、たくさん食べられ、原価は焼肉食べ放題よりも10%程度高く45%程度の原価率で諸経費も含めれば大した利益は出なかった。ドリンクも注文されず、水だけでひたすら食べられると慈善事業で商売しているような感じもし、ワンドリンク制に制度変更したら客に舌打ちされることもあり、嫌な思いをしたこともあった。

しゃぶしゃぶ食べ放題が浸透する初期の頃の内容はお肉の食べ放題のみだったが、新規に参入した競合他店は後から追随する為に、先発者の提供内容に付加価値をつけて提供するのは当然で、何かしら先発者の内容に付加価値をつけて提供していた。いつの間にか、野菜の食べ放題、ライスやうどんも食べ放題、など食べ放題の種類を増やしたり、価格を下げたりと仕掛けてきたものだった。

 

 

 

 

 

 

しゃぶしゃぶ食べ放題がテレビのグルメ情報で頻繁に紹介されて人気が増し、各店が価格・商品内容・サービス・販促などで明確な差別化を図ってきた。今は、サイドメニュー・麺飯類・デザートなども食べ放題にした店の出現で、より顧客サービスが拡充されている。その代表格が和食レストランとして認知度が高かった和食さとである。

  和食さとは、サトフードサービスが運営するファミリーレストランチェーンである。和食をメインとしているファミリーレストランチェーンとしては、日本一の店舗数を誇り、和食がメインだが、洋食のメニューも充実しており、家族で行ってもそれぞれが好きな料理を選ぶことができるなど、選択肢の多さも人気の秘訣のようだ。毎日各店舗で仕込んでいる出汁の食材を売りとし、食べ放題のさとしゃぶや季節の和膳が主力商品でご高齢層に絶対的支持を受けている。本社のある関西地方の他、関東地方東海地方にも出店してい

「食を通じて社会に貢献します」をミッションにして、安全で美味しい料理を感じのよいサービスとともにお手ごろな価格で提供し、お客様にとって安心して、楽しく、利用しやすい店舗づくりを目指すことをスローガンにした企業である。

食の外部化率(中食含む)が、43%に達しているのを背景に、外食市場へ積極的に仕掛ける、グループ店舗数765店舗(2024年04月現在)を有した企業であり、傘下には、

 

*サトフードサービス株式会社 ( 出資比率100%:和食さと、天丼さん天などの運営)、

*株式会社フーズネット ( 出資比率100%:にぎり長次郎などの運営)

*M&Sフードサービス株式会社 ( 出資比率100%:めしや宮本むなし、などの運営)

*株式会社家族亭 ( 出資比率100%:家族亭などの運営)

*サト・アークランドフードサービス株式会社 ( 出資比率51%:アークランドサービスホールディングスとの合弁会社で、とんかつ・カツ丼店のかつやなどの運営)

しゃぶしゃぶにも力を入れる和食さとは、今年4月4日より、人気の3種類の食べ放題「しゃぶしゃぶ食べ放題:さとしゃぶ」「すき焼き食べ放題:さとすき」「焼肉食べ放題:さと式焼肉」にて「鰹のたたき&真鯛料理」食べ放題の新コースを期間限定で追加した。

 鰹のたたき&真鯛料理の食べ放題コースは、焼津港水揚げの鰹を使った「炭火焼鰹のたたき」や「鰹のたたきにぎり」などの「鰹料理」と、国産真鯛を使用した「ミニ宇和島風鯛めし」やお寿司、天ぷらなどの「真鯛料理」が食べ放題とのことで、食いしん坊にはたまらないプランになっている。内容の充実さに驚きである。

 

和食さとがしゃぶしゃぶ食べ放題を始めたのは2007年、今から17年前である。同店がが始めたしゃぶしゃぶ食べ放題は業界で最初に導入したサイドメニューも食べ放題で、価格も2,980円で始めたのには驚いた。

 

ドリンクバーやビール焼酎ウイスキーワインなども一緒に飲み放題の「さとバル」も大半の店舗で導入している。自らが取りに行くのは大変だが、自分好みのドリンクに仕上げられるのは嬉しい。また一品、デザートメニューも充実しているほかソフトクリームもセルフでお代わり自由で、子供さんに人気だ。2022年9月からは新しい食べ放題メニュー「さと式焼肉」が全店で販売開始されており、いよいよ焼肉にまで加え、バリエーション豊かな食べ放題プランが店の特徴である。

 

和食さとには、何度も店舗調査に行ったり、家族でもよく行ったものである。人間の胃袋には限界があり、これだけバリエーション豊かなサイドメニューも食べ放題となると、いずれギブアップして肉の追加量が減り原価高騰に歯止めがかけられる。飲食店では、60%以内に抑制することが重要になっているFLコスト(原価+人件費)。肉をスライサーで切り、重ねられる皿に何段も盛置きし、追加注文が入るとすぐに提供する肉とサイドメニューを作るのは、調理スタッフの手間や負担が違うもの。原価率をうまく低減させても、その分、人件費がかかっては利益が出ない。食材の共通化や半加工品をうまく活用し、メニュー数を増やして魅力度を向上させながら、原価と人件費を低下させているようだ。うまく人間の心理も使って、徐々に肉からサイドメニューに誘導するようにPOPを活用していたから、さすがである。

 

そもそもターゲット層の年齢が高めの顧客に対して、和食をメインとした多品種少量の定食や御膳を落ち着いた雰囲気で食べるといったコンセプトのお店が、なぜ若者やヤングファミリーが好みそうな、しゃぶしゃぶ食べ放題を始めたのかと思っていた。

 

その目的と狙いは、平日ディナー帯の活性化である。外食市場が成長し29兆円(1997年)まで市場規模が拡大しても、どの店も平日のディナー帯の閑散状態の打破が課題だった。外食では、平日のランチ時間帯や土日に需要が一気集中するのはキャパの有効活用策からも改善策が急務だった。そのために焼肉チェーン店の中には、平日のディナー時間帯は全品半額で集客策を講じた店もあったのは驚いたもの。確かに土日の週末に客が集中するという曜日指数の偏在に、客の分散化対策をあれこれ講じる店が多かったから、分からなくはないが、さすがにそれは、やり過ぎとの声が出てなくなった。

 

親しかった和食さとの本部員に聞くと、そういった事情もあって、平日のディナーはどうしても客席が埋まらず、店内に活気がなさ過ぎて、次のお客さんが入りにくいという雰囲気を打破したいとのことだった。

その為に、店内の賑わいを演出する為に、スタートしたのであるとのこと。お客さんが店に入りやすくする為の一つとして、店内にお客さんがいなければ入りにくいから、ある程度、店内にお客さんを埋めて賑やかさを演出しなければならない。店内がガラガラだったら、この店は美味しくないんじゃないかとお客さんは連想される。チェーンとしてのブランド力で、何とか安心感を与えることができても限度がある。

 

 

極端に言えば、ロスリーダーとして集客し、食べ放題以外のメニューを召し上がるお客様から利益を確保するということも可能である。

和食独特のメニューで、前菜など酒の肴・唐揚げや天婦羅などの揚げ物・ステーキなど焼き物・サラダ・茶碗蒸しなど蒸し物・にぎり寿司や天丼、吸い物・うどんやそば・デザートなど和食のフルコースがこの価格で食べ放題とは絶対にお得感がある。ちなみにデザートはソフトクリームの食べ放題で自分好みにチョコレートなどをトッピングしてお子さんなどは楽しんでいるようだった。

この食べ放題プランに少人数で食べにいくのは勿体ない。なぜなら、あまりにも食べ放題の対象メニューが多すぎるからである。家族連れでも食べ盛りの子供を連れて行ったり、宴会で行って、全てのメニューを少しずつ食べるのがお勧め。もちろん、今回は食べれなかったメニューを次食べたいといった来店動機につながることは、店は嬉しいでしょう。

 

 

オペレーションも最初の頃は追加料理が出てこず、クレームも頻繁に発生し、時間を延長させろという声も多かったようだが、この人気プランに注文も増え、ホール・キッチンともに熟練度合いが高まったことと、業務改善も進んで、スムーズに提供できるようになったようだ。

最近は更にメニューの幅が広がり、焼肉やふぐのプランなど基本プランに付加した季節折々の旬の料理も食べ放題にセットされており、顧客の来店頻度を高める動機付けにも取り組んでいる。

 

社長は2代目だが、さらなる事業規模の拡大に向け、M&Aにも積極的な姿勢である。社長自らが現場に出向き、従業員とフレンドリーに接して現場を鼓舞することを欠かさない。現場を大切にし、成長意欲が旺盛な企業であり、今後も期待したい。

焼肉業界の新たな経営モデルと今後の展望

焼肉業界の新たな経営モデルと今後の展望

 

1.令和の焼肉業界

焼肉の市場規模は、店舗数22,000店、年商約1兆2,000億円と推計されている。日本で人気の食べ物である焼肉・寿司・ラーメンの中でも、焼肉は昔から根強い人気がある。コロナ禍では、焼肉はテーブルごとに吸気ダクトが備えられた店内設備が「換気がいい=3密回避」とのイメージが定着して安心安全であると評価された。加えて、外出規制で外食したくても外出できない中、限られた外出でどうせ行くなら、一回の外食で満足したいとの事で人気が集中した。その中でも焼肉食べ放題は特に人気である。

焼肉食べ放題は、経営側から見ても、客単価が高く会計も単純、コックレス化による人件費の抑制、オペレーションが単純で運営負担が軽減、など費用構造的にも最適で、業績不振に苦しむ居酒屋など異業種からの参入が相次ぎ、コロナ禍の「勝ち組」とされていた。コロナが収束した今も相変わらず好調のようである。

昔、焼肉は贅沢な外食と位置付けられ富裕層がターゲット客だったが、焼肉のファミレス化が進展し、勢力を拡大してきたことで、多くの人が入りやすくなっている。焼肉の中でも、特に人気がある食べ放題に於いては、安さをアピールするより、肉質の良さ・国産牛も食べ放題・一品メニューも含め食べれる種類の豊富など商品価値をアピールするなどに路線変更する店が増えている。価格も3,000円、4,000円、5,000円プランなど、低価格帯から高価格帯まで用意しており、中間価格帯を選択する人が多いようだ。また、国内より利益を出しやすく、日本式の焼肉を普及させたい目的から海外市場の開拓に積極的な外食大手も増えている。

 

2.家族連れに人気の焼肉食べ放題「焼肉キング」

 

人気の焼肉食べ放題だが、店舗数ランキング(2023年度実績より)を見ると、1位は牛角587店、2位はきんぐ305店となっている。だが、「牛角」が店舗数を減らしているのに、「焼肉きんぐ」は前年比6%増と勢いが店舗数に表れている。「焼肉きんぐ」は、私もよく行くが、食べ放題のお肉や一品料理が美味しい、価格がリーズナブル、店内雰囲気が良く接客レベルが高いと大満足のお店である。

 

「焼肉きんぐ」の運営元である物語コーポレーションは、1949年愛知県におでん割烹店の創業からスタート。80年代後半から90年代にかけて愛知県を中心に海鮮料理屋を展開した。95年にオープンした「焼肉一番カルビ」を機に焼肉事業へと参入。しかし同チェーンは目が出ず、2001年に開店した「丸源ラーメン」が当初の中核事業となった。「焼肉きんぐ」の1号店をオープンしたのは07年。様々な業態の飲食店を展開していたが、特に「丸源ラーメン」と「焼肉きんぐ」の拡大が競争力の源泉。そして現在、「焼肉きんぐ」は300店、「丸源ラーメン」は約200店舗を突破し、17のブランドを展開している成長著しい企業である。

 

3.食べ放題・飲み放題の店はどうやって儲けるのか?

食べ放題スタイルの店は多いが、あれだけ食べられて店は採算が取れているのか不思議に思う人は多いと思う。もちろん慈善事業ではなくちゃんとした収益事業なので食べ放題業態で運営している店は、損をしないための工夫をしている。

私も焼肉店を経営している時、よくお客さんから、「焼肉食べ放題の店はあれだけ食べられて何でやっていけるのか」とよく質問を受けた。「いやいや大赤字ですよ」と、店の窮状を表面上は訴えながら、ほくそ笑んだものだった。たぶん、たくさん食べた人はそう思うであろうし、元は取ったと自慢しながら、いい気分で帰っていくのだろうが、それほど店は損をしている訳ではない。確かに、しゃぶしゃぶ食べ放題の原価は高めであった。

焼肉食べ放題は調理のメインである「焼く」をお客さんに任せることと、一品メニューを簡単メニューにすることで、職人が必要がなく、コックレスの仕組みを確立して人件費を抑制させる特性がある。また、食べ放題に飲み放題をセットすれば、多くの場合、客単価もアップする。また、食べ放題に飲み放題をセットすると、大概のお客さんはどちらかに偏るもので、二刀流は滅多にいない。適度に酒類の調達が増えて、ビールメーカーや酒屋との取引で仕入れ額や販促奨励金など優位な交渉も可能となり原価低減ともなる。

私が焼肉店を経営していた時、最も儲かるメニューと言えば、食べ放題であった。単品で高額商品の和牛の特選ロースや特選カルビもあったが、高いから一般のお客さんではなかなか注文しにくく、商品回転率が低いので在庫管理に苦労した。また、高級和牛肉や専門性の高い一品料理を提供するには職人が必要となり、人件費も高くなる。一方で、食べ放題に関しては、セントラルキッチンである程度の加工していれば、店のアルバイトでも十分に対応が可能である。

食べ放題に注文が集中すると仕込みや段取りなど作業がやりやすく、作業の標準化・単純化が実現できる。味変などで追加できる品目数を増やし、お客さんに選択肢の多さをアピールするものの、実際には追加されるメニューのパターンは決まっているから、賃金の低いアルバイト中心の運営が可能である。今は各店の競争が激しくなり、メニューが多品目化し、若干、調理作業が煩雑化しているが、それでも食材の共通化や半加工商品化による種類の増加で品数が多い割には在庫と作業負担を軽減できている。

一般的に焼肉食べ放題の費用構造は原価35%、人件費25%、業務費、10%、管理費20%、営業利益10%の店が多い。業態にもよるが飲食店の場合、重点管理費用は当然に原材料費と人件費であり、これらFLコストを徹底的に管理すれば、儲けが出る。

食べ放題の品目の中でも、原価10%の商品もあれば70%の商品もある。メインの焼肉の中でも塩牛タン、歩留まりにもよるがロース、カルビ、上ハラミなどは原価が高く、これらに集中すれば店は収益的に苦しい。特に希少部位である牛タンは上価格帯の食べ放題でしか入れられないのが現状である。高原価の肉ばかり食べられると原価が高騰するから、他の一品メニューに分散させて原価率の安定化に努める努力をする。ホルモン系統、キムチ、サラダ、わかめスープなどの低原価商品に誘導し、推奨販売させれば、標準原価である35%を維持できて、店も顧客も双方が満足するもの。実際にお客さんだって、いくら焼肉の食べ放題を注文して食べまくろうと気合を入れても、肉ばかりはそんなに食べれるものではない。私の経験上、体育系のグループにもそれほど損をした経験はない。

 

食べ放題店は必ず複数のプランを用意しており、上中下の価格帯になっている。その中で、和牛や国産牛を入れた上焼肉プランは儲けが一段と違う。そういった霜降り肉は脂でしつこくなるから、量を食べられず、すぐにダウンしてしまう。最初はピンク色の霜降り肉を見て、お客さんは感動し歓声を上げるが、実際に食べるとなるとそれは別である。だからすぐにあっさりとした原価の低いサラダやキムチなど一品メニューに移行してしまい、店としても単価は高く原価が低いとドル箱プランである。

 

 

 

 

 

 

4.孤食を希望する客をターゲットに新たな焼肉スタイルの出現

最近は「焼肉ライク」のように、一人で焼肉を食べたいといった潜在ニーズを顕在化させた店が店舗数を増やしている。焼肉は一人では入りにくいものだが、その一人客をターゲットにした小型(20坪程度)で効率の高い焼肉店の存在感が出てきた。孤食を好み気兼ねなく焼肉を食べたい一人焼肉の需要に応えた店づくりで、客席回転率の向上による坪当りの売上・利益を拡大させている。

「焼肉ライク」は、「焼肉をもっと自由に」をキャッチフレーズに、フランチャイズの加盟店を積極的に応募し、多店舗展開をしている。

店の特徴としては、①一人でも気軽に行ける焼肉屋、②焼肉のファストフード、③自分風にカスタマイズした焼肉を目指し、一人一台の自分専用のロースターを設置し、周囲の目を気にすることなく、自分のペースで焼肉を堪能できる店づくりにしている。

そうした店舗設計とコンセプトにより、①誰に気兼ねすることなく、一人で焼肉を食べたいという潜在ニーズの顕在化、②あまり時間がない時でもさっと食べられる、③自分好みで、自分のペースで自分が焼いた肉を誰にも取られることなく堪能したい、④手軽な価格で焼肉を食べたい、⑤お腹一杯食べたいと個々のお客様のニーズに対応して集客力を高めているようである。

「焼肉ライク」の出現により、同じようなコンセプトの一人焼肉店をあちこちで見るようになった。単身者世帯の増加でさらに成長するか。

 

 

 

 

 

5.今後の焼肉の動向

最近の飲食店は、円安・物価高・人手不足など店を取り巻く外部環境には逆風が吹いている。特に輸入牛肉に依存する焼肉食べ放題店にとっては、大きな痛手である。また、日本は外食慣れした人が多く、世界一、品質に対する目が厳しいからコスパ評価も手厳しい。また、今はSNSの普及で、お客さんの持つ情報量が多く、店側の情報優位性がなくなりつつある。情報武装したお客さんが多いと、店側が利益を確保する機会が減り、飲食店の営業利益率の低下を招いている。

そういった環境の中でも、計画的な大量仕入によるスケールメリットを発揮した食材を効率よく活用し、食べ放題の品目を多さとコスパの良さを実現した店は強く競争上の差別的優位性を確保しているようだ。外食業界の人手不足はかなり深刻で、省人化とDX化は、今後もさらに難しくなる人材の確保への対応策となるであろう。焼肉は調理のメイン(焼くこと)を顧客にやらせるなど職人が不要で人件費を抑制しやすい。また今は、大手焼肉チェーンの多くがタッチパネルのオーダーシステム、配膳ロボット、セルフレジを活用し、省人化投資を競い合っている状態である。

人件費や原材料が上昇する中、できるだけ価格を抑えながら大量に集客し、効率よく食事を提供する為の手段のDX。各店が、今後の更なる人手不足も視野に入れ、店内の無人化への競争が令和の今は激化している。

お祝い事など「ハレの場」には、「焼肉でも行こうか」との声も多く、家族団欒で食事をするには最適な場所としての存在感がある焼肉。それだけに、今後の動向に目が離せない。

値上げしても客が離れない餃子の王将!

値上げしても客が離れない餃子の王将!

物価高騰・円安・人手不足による賃金上昇・エネルギーコストの上昇など、飲食店の経営者にとっては、費用の負担が利益を削り、店を継続させることが困難になっている。30年と長引いたデフレで生き抜いた飲食店は、値下げすることは慣れていても、値上げすることに慣れていない為に苦労しているようだ。

値上げしたら客離れが起きるのではと、競合他店のプライシングの動きを見ながら、恐る恐る値上げし、客が受け入れてくれるだろうかと、神経を過敏にして客の動向を見る店が多いであろう。

そういった中で、直近で3度の値上げをしたにも関わらず、客が離れないところか、業績を過去最高に更新しているのが餃子の王将である。同社は、2022年5月・11月、2023年にも10月に直近では計3度の値上げをしたが、やむを得ないと客に理解されているようだ。

最近の物価高騰の中で値上げしても、「今までが安すぎたんだ」と普段の行いがいいからか、客が離れることがない状態である。町中華ブームを追い風に、まだまだ安く美味しい中華を食べれるから客は満足しているようで、店内の賑やかさが価値ある中華料理店を物語っているみたいだ。

餃子の王将はその値上げした分を、確実に賃上げの原資にしているようで、人を大切にする企業としてイメージ向上にもつなげている。2024年の春季労使交渉で、基本給を底上げするベースアップと定期昇給などを合わせて平均月額3万9162円の賃上げで妥結したとテレビや新聞などで報道されている。労働組合が要求した2万220円を大幅に上回る。賃上げ率は11・5%で過去最高となるようだ。社員もこれだけ賃金が上がったら、会社に忠誠心を持ち、業績向上に貢献しようと努力するのは当然か。

賃金の大幅な引き上げについて「将来を見据えた人材の確保を積極的に進めるため」と説明しており、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた外食産業では、一度離職した人材が戻らず、人手不足はより深刻な状態である。その為、採用競争力の向上や社員のつなぎとめには、待遇改善が欠かせないとの認識を即時に行動へ移す迅速さは、さすがである。

 

餃子の王将の業績を時系列でみると、効果的な経営戦略と卓越した経営管理技術で安定経営を実現しているのが明白である。餃子の王将は前年2023年3月期の売上は前期比9.7%増の930億2200万円で2桁に近い伸び率で成長が著しい。

今年度2024年3月期の実績も直営全店売上は925億56百万円(前年比109.1%)、と、通期においても過去最高売上を達成している。ちなみに、客数81,735人(前年比105,9%)客単価1,132円(前年比103,1%)と総て前年比を上回っている。また、FC売上を含む全社売上高(決算上の売上高)は、26ヶ月連続で同月比過去最高を更新しており、通期では創業以来初めて1,000億円(1,009億84百 万円)を突破している。顧客からの支持もあり、持続的な安定成長を実現しているようだ。

餃子の王将は直営店主体の店舗展開!

2023年3月末の店舗数は732店。そのうち、フランチャイズ加盟店は190店舗。FC比率は26.0%で、直営店主体の店舗展開を行っている。餃子の王将は直営店が多い為、マクドナルドなどFC比率が高い外食企業と違い、各直営店の家賃や人件費の負担が重く、固定費が高いために損益分岐点は高めではある。

そういった費用構造でも、2023年度実績では、営業利益率は標準値の10%には届かないが、8.6%は確保しており、収益力に問題はない。貸借対照表を見て財務状態を分析しても、自己資本比率が74.6%と財務基盤は盤石であり、経営の安定性は評価できる。上場企業だから資本効率(ROEが10%以上なら投資価値があると判断され、 5%以上なら合格点、15%以上なら優良企業といわれる)も重要指標として見られるだろうが、餃子の王将のROEは10,20%だから投資家にも一定の評価はされているだろう。ちなみに現在の株価は7,700円(24年4月10日時点)である。

直営店の比率が高いと、コロナ禍のように急激な客数の減少が起こると、たちまち営業赤字に転落することがある。しかし、王将は2021年3月期に60億7300万円もの営業利益を出しており、前期と比較し、わずか2割の減益に留めるといった健闘をしている。

何故それらを可能にしたのか、その主要因の一つが、テイクアウト・デリバリーの業容拡大に努めたことであり、コロナ禍に「レンチンシリーズ」の新発売や、デリバリーサービスの対応店舗拡大に動いたことが功を奏したようだ。2021年3月期のテイクアウト・デリバリーの売上高は前期の1.6倍となる246億800万円で、売上高の構成比率は2割から3割に増加しており、コロナ収束後の現在も、テイクアウトは好調を維持している。

 

 

 

(単位:百万円)

 

2019年3月期

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

売上高(前期比)※1

81,638(104.5)

85,571(104.8)

80,616(94.2)

84,775(105.2)

93,022(109.7)

直営店既存店売上伸率※1

102.3%

104.0%

92.8%

103.1%

108.7%

売上総利益(率)

57,261(70.1)

60,148(70.3)

56,088(69.6)

58,175(68.6)

63,657(68.4)

営業利益(率)

6,924(8.5)

7,698(9.0)

6,073(7.5)

6,959(8.2)

7,981(8.6)

経常利益(率)

7,310(9.0)

8,084(9.4)

6,867(8.5)

13,024(15.4)

9,140(9.8)

当期純利益(率)

4,189(5.1)

5,311(6.2)

4,287(5.3)

8,807(10.4)

6,213(6.7)

総資産

63,950

67,538

91,154

89,405

84,103

純資産(自己資本比率)

46,872(73.3)

50,305(74.5)

52,952(58.1)

59,098(66.1)

62,770(74.6)

王将フードサービス決算情報より(2023年3月)

 

 

 

 

同じように見えても大阪王将とは別会社!

同じような看板でも、お客さんにとって紛らわしいが、別会社であるイートアンドが展開する大阪王将である。双方が餃子を主力商品にして事業展開しているが、イートアンドの王将は食品販売・卸が中心の会社で冷凍食品である「大阪王将 羽根つき餃子」はCMでも有名だろう。同社は2023年2月末時点で463店舗もの飲食店も運営し、売上高の4割は飲食事業で構成されているが、そのうちの8割程度はフランチャイズ加盟店である。大阪王将は店舗内にも調理ロボットを設置し、調理ロボットが作る焼飯などが、テレビでも紹介されて、話題になった店でもある。

大阪王将とは餃子を看板にしながらも、経営路線や事業構造が違う。餃子の王将は調理ロボットを使わず、セントラルキッチンにもあまり依存せず、店でコックさんが作ることが魅力の一つである。各店舗の裁量で店独自のメニューも開発し販売できる。本部がチェーンとしての統一性を遵守する為に、徹底したマニュアルで厳格な管理をするのではなく、各店舗には最低限の基準を守らせて自主性を引き出しているといった本部とは緩やかな関係を構築しているようだ。これらを実現する為に、人材育成には相当力を入れている。料理人を育成するための王将調理道場、店舗のマネジメントを学ぶ王将大学、などの教育システムは有名で、常に質的向上を図っている。

 

 

餃子の王将の個性ある店の雰囲気!

餃子の王将では、統一された王将用語があり、代表的な用語では、餃子1人前の注文が入った時、イーガーコーテルと言って厨房にオーダーを通している。イーは1、ガーは人前、コーテルは餃子という意味らしく、オーダーの通し方でも、中国の雰囲気を醸し出しているようだ。

一人客も多く、カウンターに座り調理人の華麗なる鍋捌きを見ながら、美味しくボリュームのある中華料理を堪能しているようだ。少量盛りのメニューであるジャストサイズは一人客の酒の肴としてありがたい。メインターゲットのファミリー客にはいろいろ一品メニューを注文して分け合い家族団らんの場として活用する価値が大きい。

あらゆるコストの上昇などでラーメン店経営の負担が多く、倒産する店が増加している。また、それらが要因でラーメン一杯1000円の壁が話題の中、王将のラーメンは安くて美味しい。王将ラーメンは580円(税別)、キムチラーメンは530円(税別)、味噌ラーメンは550円(税別)円と驚きの安さで提供されている。

 王将は焼飯470(税別)円も安く美味しさには定評があり、コックさんのムリ・ムダ・ムラのない動きと華麗なる鍋捌きには魅了される。あれだけ注文数が多い厨房で働くと熟練度合いが高まり、調理スキルもアップするでしょう。カウンターに座って、厨房の中でコックさんが素早く料理を仕上げる華麗な動きを見ながら待つのもいい。客にとってはお得感がある品揃えだが、原価率31%ときちんと原価管理もされているのは感心する。



王将とバーミヤンとの違いと今後の動向!

 

中華ファミレスチェーンで、すかいらーく傘下のバーミヤンも、本格中華がリーズナブルに楽しめるファミリーレストランである。バーミヤンは1986年に開業し、どの店に行っても同じ味をスローガンにチェーンとしての統一性を遵守した店づくりになっている。

 

各店が均一の味で低価格の料理を提供するために、マニュアル化した手順のもとでパートさんが主に調理を行っている。セントラルキッチンで下準備された半加工品や下味調理された食材を店舗の厨房で最終加工し、お客さんに提供している。他業態に比べて冷凍食材を使用しないなど、鮮度を重視したメニュー作りもされている。

 

現場への調理指導は、各店舗の端末へ調理手順を動画配信するシステムが配備されたり、技能検定制度を整備するなど教育訓練は徹底されている。DXにも積極的で、タッチパネルによるオーダーシステム、配膳ロボットによる料理提供、セルフレジも今年の上半期中に全店で完備する計画で省力化投資にも力を注ぎ、効率化を追求しているようだ。

定着した配膳ロボットだが、通常、人の接客だとお客様が歩くと従業員がお客様に道を譲るものだが、配膳ロボットが来ると客の方が配膳ロボットに道を譲るのは見ていて滑稽だ。でも、伸びては困るラーメンや泡が消えたら価値が減る生ビールを配膳ロボットに運ばせるのはいかがなものだろう。効果と効率を考え運ばせるものを考えた方がいいと思う。

 

すかいらーくは、外食売上ランキング3位で外食御三家といわれて高度経済成長期を支えた外食の代表企業の一つである。ガスト(1,272店舗)やバーミヤン(354店舗)などお手頃価格で幅広い利用動機に対応し全国に多店舗を展開するファミリーダイニング事業と、しゃぶ葉(282店舗)など、専門性が高く外食ならではの豊かな体験や価値を提供するカジュアルダイニング事業の両輪で、顧客の多様化する外食のニーズに対応している。(店舗数は2024年3月時点)

 

 

両店の違いを筆者の視点で見比べてみたい。

 

店舗数は餃子の王将729店(2024年3月時点)、バーミヤン354店(2024年3月時点)であり、店舗数は倍の差がある。100席程度の大型標準タイプ店で郊外型が中心のバーミヤンに対して、規模も立地も様々な餃子の王将。家族連れで行くのは、ゆったりと落ち着いた雰囲気でくつろげるバーミヤンを好む人も多いが、近くにあまり店がないといった不満があるようだ。

店舗経営で、顧客満足度を高めるために重視するのは、QSCである。Qは品質、Sはサービス、Cはクリーンリネスである。

Qの品質に於いて商品力と価格のリーズナブル性は、甲乙つけがたく思えるが、裏メニューなどメニュー以外のカスタマイズ化は餃子の王将の方が柔軟性があり聞き入れてもらえて満足感が増す。バーミヤンは料理提供のほとんどを時給(標準タイプ)92円の配膳ロボットが担っており、ホールに店員さんも少ないので言いにくい点は否めない。

Sのサービス(接客)に於いては、餃子の王将は気さくでフレンドリー感があり特に違和感はないが、バーミヤンの方が丁寧で気配りのある接客であろう。Cのクリンリネスは、店内の清掃の質を表し、特に衛生的、見た目の清潔感が問われるが、従業員の制服の着こなしも含め整理・整頓・清潔・清掃は、バーミヤンの方に軍配が上がっている気がし、餃子の王将に行く客は、あまりそこまで要求しないように感じる。

上記のように、ターゲット客やメニュー内容は似ている両社だが、中華料理店だけの単一事業で市場を深耕してシェアを高める餃子の王将と、複数の業態を開発して複数ブランドのシナジー効果を得ながら、また多角化のリスクを分散するバーミヤン。異なる経営路線の両社の事業展開を、今後も興味を持ちながら見ていきたい。