味噌らーめんに特化し勢力を確実に拡大する「麺場 田所商店」
「麺場 田所商店(以下、田所商店)」は日本古来の食文化でもある味噌にこだわる味噌屋の息子が立ち上げた味噌らーめんに特化したチェーン店だ。国民食でもあり市場も安定成長し、圧倒的なリーダー企業も不在で群雄割拠のらーめん市場の中で、味噌らーめんとしてのブランドポジションを明確にしている。味噌に特化することで他店との差別化を図り、「味噌らーめん=田所商店」と想起するコアなファンも増加中だ。こだわりのある味噌に一点集中しながら、サイドメニューも拡充しバリエーション豊かで飽きの来ない商品構成に仕上げて集客力を強化。唯一無二の味噌らーめんと、来店客の殆どが注文する看板メニューである「味噌漬け炙りチャーシュー」など、ここでしか味わえないインパクトがある商品で競争が激化する中でも存在感を発揮している。
田所商店とは!
2003年に千葉県で1号店を開業し今年23年目だ。営業基盤を段階的に確立しながら、2010年以降にはフランチャイズでの展開を本格化。その後、2019年の109店舗から急速に拡大させ、コロナ禍(2020年)でも競合他店が既存店の営業見直しや出店を控える中でも、出店を続け2023年までの4年間で1.5倍に急伸させた。その勢いは今も止まらず今年4・5月の出店予定も入れると国内194店舗(2026年5月末)と驚異的な伸びである。
運営元は株式会社トライ・インターナショナル。「味噌を通して世界の食文化を豊かにする」を経営理念に、味噌らーめん専門店の直営店経営とフランチャイズ事業及び、自社工場での各種味噌・タレ類・食材や加工食品の製造・卸売などが事業内容である。全国の味噌蔵と連携し、地域の伝統と職人の技を未来へつなぐことで、日本の発酵文化の発信に力を注いでいる。社長の田所史之氏は、ラーメン・居酒屋で起業し、バブル崩壊で挫折した経験がある。その後、フランチャイズ事業で勤務した経験と実家が味噌の醸造を家業としていたことで味噌を商材とすることに決め、味噌らーめんに特化した田所商店を開業し、再スタートしたのだ。2025年12月には宮崎を拠点として、140年に渡って味噌や醤油など発酵食品を製造してきた老舗企業である早川しょうゆみそ株式会社の発行済全株式を取得。老舗企業が有する発酵文化と技術を継承しながら、味噌事業を補強している。チェーン売上高(2024年度実績) は166億円(その内、海外売上高10億円)だ。財務状態(2025年3月期の貸借対照表)を見ると、自己資本比率が9.6%と過小で、さらに今年2月には減資を予定するなど、資本の安定性が低い。出店を積極拡大しているチェーンは出店費用などで、借入依存度は高めになりやすい。そのため、田所商店は他人資本を活用したFCによる出店を進めているが、その割には負債比率が高いのが心配だ。事業基盤の強化や店舗のFC店の経営の安定成長を優先し、本部の収益を後回しにしているのではなかろうか。本部とFC店が一体となって目的を実現するためには、中長期的視野に基づき、相互が利益を適正に分配し、将来に備えた財務管理は必須条件。本部が盤石な財務基盤を有していないと、有力なFC店舗の出現で力関係が逆転する事例もあるから要注意だ。不測の事態に備え財務構造の見直しが必要ではなかろうか。
田所商店のこだわり味噌とは!
店舗で用いる基本となる味噌は、北海道味噌・信州味噌・九州味噌・江戸前味噌・伊勢味噌など5種類。ここから各店舗は地域性や市場ニーズに適合させた3種類の味噌を選定しメニューを構成している。
北海道味噌は、塩味がやや強くコクと深みに特徴のある味噌。トッピングは北海道にちなみ、ポテトがのっているなどユニークで、その話題性からSNS効果を発揮。一番人気は北海道味噌炙りチャーシュー麺で、シンプルな北海道味噌らーめんも人気だ。
信州味噌は、全国にある味噌の生産量の約35%を占める淡色でやや濃口味噌の代表的なもので、やや酸味のある芳香を持つのが特徴。トッピングには信州にちなみ、山菜がのっており、人気は山菜たっぷり信州味噌らーめんだ。
伊勢味噌は、岡崎八丁味噌の流れを汲む、豆味噌をベースにした合わせ味噌。熟成期間を長く掛けて仕上げており味は濃厚で特有の渋みを持つ奥深い旨味が特徴の味噌だ。トッピングは三重県にちなみ、あおさがのっている。あおさ香る伊勢味噌らーめんが人気だ。九州麦味噌は、九州地方は麦味噌の主生産地で、温暖な気候のため熟成期間が短く、
甘口味噌が多く色は淡赤色までに限られているのが特徴。トッピングは九州にちなみ、さつま揚げがのっており、大きなさつま揚げ九州麦味噌らーめんが人気だ。
江戸前味噌は、甘みを醸し出す味噌で、たっぷりの麹を使った甘みと少ない塩分が特徴である。トッピングには江戸前にちなみ、大判のりとあさりの甘辛煮がのっており、甘みが特徴の江戸前味噌らーめんが人気だ。
田所商店のマーケティング戦略を見ると、
商品戦略は、こだわりの味噌を手間暇かけて仕込んだ本格スープと麺は太めの黄色い縮れ麺のらーめんが特徴である。それぞれの味噌に対して「味噌漬け炙りチャーシュー麺」「肉ねぎらーめん」「野菜らーめん」など、豊富なメニューが用意されおり、しかも味噌炒飯や味噌唐揚げなど他店には模倣困難な商品だ。絶妙な濃厚加減で、濃すぎることなく、飽きずにスープを飲めると評価も高い。厚めで歯応えのあるチャーシューや玉子も味噌漬けにし、徹底した味噌へのこだわりを持っている。味噌の産地別や地域ごとの特徴を打ち出し、種類も豊富で飽きの来ないメニュー構成は来店頻度も高める。地域や季節限定の味噌らーめんやご当地の味噌らーめんも販売しており、今は京都雅味噌らーめんや沖縄味噌ラーメンを販売中である。
価格戦略
信州味噌ラーメンは注文しやすい800円、北海道味噌漬け炙りチャーシュー940円~1,240円などとリーズナブルな価格である。らーめんの提供価値と顧客の納得性を重視する田所商店はリピート率の向上に向けてお手ごろ感を重視した価格だ。1000円の壁を意識し、値上げを躊躇するラーメン店ではあるが、客側もこの歯止めがかからない物価高では1000円突破は仕方ないと許容する意識が高まっている。強気の価格戦略に出てくる店も多いが、田所商店はあくまでも顧客視点によるプライシングだ。
販促戦略
店舗では公式LINE導入店で友だち追加すると割引やトッピングサービスが配信される。お笑いコンビのたんぽぽ・川村エミコさん出演のTVCMも放送中だ。親しみやすさと自然体の魅力に加え、川村さんも味噌の価値と発酵食品への関心が高く田所商店への思いも強いから選ばれたようだ。
立地戦略
店舗数は国内194店舗で、北海道・東北8店舗、関東88店舗、中部32店舗、近畿21店舗、中国18店舗、四国3店舗、九州21店舗に出店しており、北海道・東北エリアと四国エリアが手薄な出店状況だ。海外へもアメリカ7店舗を中心に10店舗を展開中。国内は「蔵出し味噌 麺場 田所商店」、海外は「Ramen Misoya」のブランドで展開している。国内のラーメン店市場の立地タイプ別での伸び率は微妙に変化しており、都市型店舗が約45%(伸び率+3.1%)と中心だが、ロードサイドが約33%(同+2.4%)、商業施設が約12%(同+4.7%)、海外展開が約10%(同+6.3%)となっている。やはり海外市場の開拓を、今後の成長ドライバーとするチェーン店が多いようだ。田所商店もまだ数は少ないが海外市場の開拓を図った出店戦略を推進中である。
顧客・店舗戦略
孫の代から親世代・祖父母世代と、3世代にわたり支持される店づくりを徹底。幅広い年齢層のお客さんに支持され未来永劫的な店舗運営をしていく仕組みの確立を目指している。薬膳としての効果がある味噌をどの世代でも美味しく食べてもらえるよう商品化。店内は清潔感があり、快適に食事ができるように店内を設計。店舗レイアウトはカウンターとテーブル席のバランスを最適化させながら、一人客とファミリー客の需要を取り込んでいる。単にらーめんが美味しいだけでなく、接客サービスも含めてトータル商品としての質的向上に向けた各施策を実施中だ。
田所商店の店舗展開の原動力はフランチャイズシステム!
フランチャイザーとフランチャイジーは運命共同体と標榜し、「共に成長・共に繁栄」をスローガンに掲げている。単にらーめん店の店舗網を拡大するのではなく、「味噌らーめん専門店」を通じて、味噌の文化と共に世界に広めていくことを目的にしたチェーン店だ。他人資源を活用しながら、それぞれが共通目的の達成に向けて、貢献意欲の喚起とコミュニケーションを図りながらブランド力を高めている。フランチャイズ店のポテンシャルを最大限に引き出し、成功の再現性を組み入れたビジネスモデルを提案し、共に成長する事業体を構築。もちろん、チェーンとしての商品力を統一する為に食材調達は指定され制約はあるが、ロイヤリティは必要がないのは、店舗にとってはやればやるだけ自らの利益になるからモチベーションも高まる。加盟金の150万円ももこの儲かるビジネスモデルからすれば、安価で投資回収速度も速いから経営的には嬉しい。2店舗からは100万円だから出店意欲も増すであろう。収支モデルとして直営店約30坪(36席)の実績を紹介しているが、月売り上げ1,100万円、年商1億3,200万円、月営業利益180万円、年間利益2,160万円、営業利益率16.4%の高収益だ。もちろん、様々な不確定要素や立地条件により、実際とは異なる場合があるだろうが、2店舗目を出店するオーナーが多いのは、この高収益のビジネスモデルに追加出資する価値があることである。平均客単価は1,150円、12時間営業で客席回転率は平日9.7回転、休日13.9回転で標準値よりも坪効率は高い。
田所商店のFC運営上の強みは!
FC店舗との強固な関係構築
店舗数の82%(2023年7月時点)がFC店舗と圧倒的にFC加盟店の比率が高い。業界素人でも経営可能なFCパッケージとして開発された商品レシピや運営ノウハウなどを独自の食材と共に提供。そして本部の運営指導で売上が順調に伸び収益力を高められている結果が、出店意欲の高い加盟店を呼び込んでいるようだ。また、7割以上が同一オーナーによる多店舗化による出店である。FC加盟の成功のバロメーターでもある同一オーナーによる多店舗化を実現できていることは、儲ける仕組みが確立されたビジネスモデルであることの証だ。
味噌らーめん専門店のパイオニアとしての市場での位置
味噌の醸造からお客様へ提供する商品まで一貫した流れで、味噌らーめん専門店としてのフランチャイズパッケージを構築しており、業界においてもオンリーワンの存在として認知されている。それだけでなく、歴史ある味噌蔵・醸造所の運営も手掛けており、味噌や発酵に関わる分野の中で高い専門性を有している。代々受け継がれた伝統製法と、それを守り続ける職人の醸造技術・知識・経験やノウハウなど無形資産の価値は高い。
健康にこだわる商品開発を可能とするチーム
管理栄養士からなる商品開発チームにより、乳酸菌やオリゴ糖、穀物酢、果実酢などを素材に加え、免疫力の向上や腸内環境を整える商品を開発。他にも低糖質麺やサラシア等を取り入れて、親子三世代の健康を意識した様々な健康への効能を考えた商品づくりを徹底。健康ニーズの高まる今の時代に合致したらーめんは強みである。
最後に!
2024 年度の国内のラーメン市場規模は約7,900 億円(2024年度)であり、10年前の1.6倍に成長している。圧倒的な市場シェアでイニシアチブを握るリーダー企業が不存在で、群雄割拠の競争環境だ。田所商店の他にも、積極的な出店戦略で店舗数を急伸させ注目されるラーメン専業チェーン店が3社ある。その中で1番の丸源ラーメン(239店)には及ばないが、山岡家(198店舗)魁力屋(192店舗)とは競り合っている状態だ。
中東情勢の緊迫化によるエネルギー価格上昇や円安傾向が続く中で、将来不安を感じて家計防衛に必死の人は多い。しかし、ここでしか食べられない価値あるらーめんを提供する店には価格は惜しまないといった消費の二極化も進展。付加価値を創造できる店は、価格競争に埋没することなく非価格競争でも優位性を確保できる。そういう店を田所商店は目指している。














