焼肉は「食べ放題」の普及で市場が活性化されてきて30年以上が経つ。食べ放題チェーンの店舗数を見ると上位5社の中で店舗数を増やしているのは現在2位の「焼肉きんぐ」だけだ。食べ放題チェーンや低価格の焼肉店は輸入食肉への依存度が高く、今の円安状態が続くとより一層厳しくなる推察される。輸入牛の仕入れ値は20年前の倍以上、部位によっては3倍以上だからだ。加えて、他のコストも軒並み上昇し、店の採算が悪化しており、焼肉きんぐだけが突出した勢いを有している現況である。焼肉きんぐが他のチェーンと比べて圧倒的なのは、その成長速度だ。2007年に1号店オープンとまだ20年にも満たない後発チェーンでありながら、店舗数2位にまで躍進しており、その勢いは今も続いている。そういった焼肉市場の中、先行していたのは店舗数1位の「牛角」だ。かっぱ寿司や大戸屋など多くの著名ブランドを有し、多業態戦略で国内外にFC店も含め2,602店舗(25年6月末時点)を展開する外食大手のコロワイドグループの中核事業である。傘下の焼肉事業を運営するレインズインターナショナルが1996年に創業した「牛角(開業時は焼肉市場・七輪)」は今年30年目の節目を迎える。7年間で1000店舗にまで急成長させた焼肉チェーンだったが、現在、牛角ブランド自体は店舗網の再構築フェーズにあり、既存店舗のテコ入れや整理などを進めている。食べ放題専門店も展開しながら、今は新たな成長業態である「牛角焼肉食堂」に経営資源を重点配分。既存業態と新業態を調整しながら、焼肉市場でトップの座を堅持している。
牛角焼肉食堂とは!
成長を加速させているのが、日常的に気軽にフードコートで焼肉を主とした食事ができる「牛角焼肉食堂」。同店はフードコート専門店として開発された業態で、熱々の鉄板焼肉定食や焼肉丼を中心に冷麺や石鍋チゲなどを提供している。焼肉市場が特別感ある非日常消費と日々の食事である日常食の二極化が進展する中、同店は焼肉を日常食として700円から1,000台を中心にした価格帯で多くの人に手軽に焼肉料理を提供する店舗だ。現在、87店舗(2026年2月時点)出店しているが、その内3分の2は小売業2強の一つであるイオン系のショッピングセンター(以下、SC)だ。エリア的には北海道・東北が15店舗、関東26店舗、中部22店舗、近畿16店舗と出店数全体の9割を占め、中国・四国・九州は手薄となっている出店状況である。昨年(2025年)は30店舗を新規に出店し、今年(2026年)は100店舗を超える勢いだ。日常利用の「牛角焼肉食堂」と、お祝い事などのハレの場や特別な外食での利用を目的とした「牛角」。両ブランドの市場に於けるポジショニングも明確にしながら店舗戦略を進めている。
フードコートには多くのメリットがある!
ディナーや週末に集中しがちな需要特性の焼肉業態よりも、時間帯や曜日指数を気にしない営業で売り上げが安定するメリットがフードコートにはあり、より運営の平準化が可能で作業効率が高まる。実際に、平日ディナーに単価の高い外食需要が発生することは少なく、お祝い事などハレの場が頻繁にある訳でもない。また、満足度が高過ぎて経済的にも負担の大きな食事は何度も行けるものではなく、適度に満足し予算的にも負担が軽い食事の頻度は自然と高くなるもの。焼肉は単価が上がるが、あまり上がり過ぎると高かったというイメージが残り、次の来店までの間隔は長くなってくる。その点は一食完結型の定食スタイルはお手頃価格で食事ができるから来店頻度が高まるだろう。 フードコートはSC自体の集客力を利用し、他のテナントと共に顧客提供価値を向上できるのも魅力だ。食べ放題店や専門店よりも安価な価格で吸引力を強化し、食材の回転率が上げていつも鮮度の高い商品を提供しながら、食材を無駄なく使うことで安定原価を実現できるから、利益を確保しやすいのではなかろうか。
フードコートを取り巻く環境は!SCの現況と今後の動向は!
少子高齢化や人口減少によ市場が縮小する中、利便性の高いネット通販の普及度合いが高まり、従来のSCは集客が困難となっている。事実、SCの総数は減少傾向にあり、2018年の3,220施設をピークに2019年以降は6年連続で減少し、2024年末は3,037施設となった。2022年以降は年間35前後で推移していた新規開業数も、2025年には新規開業数が過去最少の18施設まで落ち込んでいる。新規開業SCは小型化が進み、テナント構成も変化し、テナントも衣料品の割合が低下。飲食店やサービス業種の割合が増加。2024年には飲食が27.2%、サービスが23.7%を占め、非物販が半数以上だ。一般社団法人日本ショッピングセンターによると、統計開始以来で過去最少となる見通しで、閉店数が新設を上回るという「純減」は7年連続とのことだ。その原因は人口減少という社会的な側面や、建築資材・人件費の高騰といったコスト面の影響も大きいようである。SCは自然発生的に形成された商店街と異なり、一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体だ。ブランド力のある店舗を誘致しテナントミックスを最適化し、他のSCとの差別的優位性を確保している。消費者ニーズに応えるコミュニティ施設として都市機能の一翼を担い街づくりの活性化には欠かせない存在だ。そのSCで重要な役割を担う存在になってきたのがフードコートだ。フードコートと言えば、多種多様な店が連なり価格も低価格でさっと食べてすぐに帰るとイメージを抱く人が多い。でも売り上げの割に高い賃料の負担が多いフードコートでは撤退するテナントが続出。同質化しやすいSCの差別化手段として、また、集客の目玉として新たなコンセプトによる独自性のある運営をする進化したフードコートも増えている。飲食店の情報サイトである「ぐるなび」がプロデュースした各地の人気店の味を再現しているご当地グルメを集めたフードコートは話題だ。今はSCの差別化手段としてのフードコートの果たす役割が大きくなっている。
フードコートへの出店メリットは!
通常、坪当たり100万は必要な開業費用である既存の焼肉業態とは異なり、初期投資はかなり抑えられる。その結果、投資回収速度も速く、投資効率の高いビジネスモデルの設計だ。
ランニングコストも、SCの集客力の利用、余裕ある共有の客席スペースの活用、セルフサービスでホール人員の削減による人件費の抑制、SC自体が販促するので店舗独自の販促コストや手間が省ける、等のランニングコストの削減にも寄与する。また、天候に左右されず安定した来客数を見込める、類似業態の店舗が隣接することが少ないため競合が限定される、等の魅力もあるようだ。 もちろん、フードコートに出店する店舗には、運営上の制約や想定通りいかないと採算性の問題が生じることがあることのリスクは仕方ない。でも、SCのフードコートは異なる個々の食のニーズに対応できるからグループ客やファミリー客などからも選ばれている現状を利用しない手はないだろう。
定食市場の競争環境は!
客単価から見ても定食レストラン市場の競争は激化している。定食チェーンだけでなく、定食メニューを拡充する牛丼チェーンや和洋中のファストフードも競合店だ。また、最近は平日のランチ営業を充実させる焼肉チェーン店が増えている。牛角を創業した西山知義氏が率いる焼肉ライクも脅威な存在だ。
焼肉食べ放題店も仕入れコストや人件費が上昇し物価高騰で節約志向の人が増えている中で各店が値上げで対応してきたが、これ以上、価格を上げると客離れを起こす心配から、値上げを躊躇している。今は値下げした新メニューの販売や大幅な割引で歓送迎会の繁忙期前を凌いでいる状態で、ランチの集客にも力を入れてきている。焼肉は本来ならディナーに集中し、経営資源を集中させた方が効率的な経営になるのは言うまでもない。しかし、安定した売り上げが求められる今は、同じ賃料を払うなら費用が高くなっても長く営業した方が得策と考える店も多い。この一方を追求するともう片方が犠牲になるトレードオフの関係でどちらを重視するか経営判断は難しいところだろう。焼肉業態は売り上げの平準化が困難でバラつきが大きい業態特性がある。お客さんの入りが乏しい平日のディナー対策として、繁閑に応じてメリハリ運営をして対応するか、売り上げの安定化を狙いランチ営業に力を入れるか、どちらかだ。実質賃金の低迷と物価高騰で節約志向が高まる中、真っ先に削られるのが外食で、その中でも単価が高いディナーが最も削られるから仕方ない。削られやすい外食だが、外食慣れした日本では全く行かないというのは考えにくい。久しぶりに人と会う機会があれば、せめてランチや低価格店くらいには行こうという人が多いはず。まだまだ安定的な需要があるのはランチでディナーは開けてみないとわからないといった水商場的なもので、これらの傾向は失われた30年と共に根強いもので外食店の課題でもあった。焼肉の来店頻度は一般家庭の平均で、月に一度とされている。その焼肉を単価の低いランチで食べてもらうのではなく、アルコールも入り単価が上がるディナーで食べてもらいたいというのが店の本音だ。しかし今は集客が難しく、とりあえず、お手頃価格のランチをフロントエンド商品として集客し、バックエンド商品であるディナーへの誘導を狙っている。ランチで店の味や雰囲気を味わってもらい、ディナーの割引券を配布し来店動機を高める仕掛けだ。当店の焼肉を本格的に堪能したのなら夜にお越しくださいというのが店側の思惑だろう。でも、昼夜の価格差が大きいと、昼しか来ない人も多い中、日々店を回す運転資金の確保のために昼も営業している店は多く、客側にとってはランチの選択肢が広がっている。店側も昼に店全体の良さを理解してもらえば、焼肉など高額料理はハレの場で利用されることが多いので、頻繁の利用は無理でも祝い事など特別の日に利用してもらえる可能性は高いから、それを期待し定食メニューに力を入れているのだろうし、今後も続きそうだ。
最後に!
元気なシニアが多く今後も肉類を好むシニアが増える中、焼肉は無性に食べたくなる存在感ある食事だ。今から58年前の昭和43年(1968年)に大阪の焼肉チェーンが始めた焼肉定食だが、今は多種多様な飲食店でもメニューとして定番化されているほどである。そういった中で、「牛角焼肉食堂」の提供価値を認めてもらいメインブランドの牛角に誘導できるかは、これからが勝負だ。








