中小企業診断士/行政書士 中村事務所

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値上げしても客が離れない餃子の王将!

値上げしても客が離れない餃子の王将!

物価高騰・円安・人手不足による賃金上昇・エネルギーコストの上昇など、飲食店の経営者にとっては、費用の負担が利益を削り、店を継続させることが困難になっている。30年と長引いたデフレで生き抜いた飲食店は、値下げすることは慣れていても、値上げすることに慣れていない為に苦労しているようだ。

値上げしたら客離れが起きるのではと、競合他店のプライシングの動きを見ながら、恐る恐る値上げし、客が受け入れてくれるだろうかと、神経を過敏にして客の動向を見る店が多いであろう。

そういった中で、直近で3度の値上げをしたにも関わらず、客が離れないところか、業績を過去最高に更新しているのが餃子の王将である。同社は、2022年5月・11月、2023年にも10月に直近では計3度の値上げをしたが、やむを得ないと客に理解されているようだ。

最近の物価高騰の中で値上げしても、「今までが安すぎたんだ」と普段の行いがいいからか、客が離れることがない状態である。町中華ブームを追い風に、まだまだ安く美味しい中華を食べれるから客は満足しているようで、店内の賑やかさが価値ある中華料理店を物語っているみたいだ。

餃子の王将はその値上げした分を、確実に賃上げの原資にしているようで、人を大切にする企業としてイメージ向上にもつなげている。2024年の春季労使交渉で、基本給を底上げするベースアップと定期昇給などを合わせて平均月額3万9162円の賃上げで妥結したとテレビや新聞などで報道されている。労働組合が要求した2万220円を大幅に上回る。賃上げ率は11・5%で過去最高となるようだ。社員もこれだけ賃金が上がったら、会社に忠誠心を持ち、業績向上に貢献しようと努力するのは当然か。

賃金の大幅な引き上げについて「将来を見据えた人材の確保を積極的に進めるため」と説明しており、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた外食産業では、一度離職した人材が戻らず、人手不足はより深刻な状態である。その為、採用競争力の向上や社員のつなぎとめには、待遇改善が欠かせないとの認識を即時に行動へ移す迅速さは、さすがである。

 

餃子の王将の業績を時系列でみると、効果的な経営戦略と卓越した経営管理技術で安定経営を実現しているのが明白である。餃子の王将は前年2023年3月期の売上は前期比9.7%増の930億2200万円で2桁に近い伸び率で成長が著しい。

今年度2024年3月期の実績も直営全店売上は925億56百万円(前年比109.1%)、と、通期においても過去最高売上を達成している。ちなみに、客数81,735人(前年比105,9%)客単価1,132円(前年比103,1%)と総て前年比を上回っている。また、FC売上を含む全社売上高(決算上の売上高)は、26ヶ月連続で同月比過去最高を更新しており、通期では創業以来初めて1,000億円(1,009億84百 万円)を突破している。顧客からの支持もあり、持続的な安定成長を実現しているようだ。

餃子の王将は直営店主体の店舗展開!

2023年3月末の店舗数は732店。そのうち、フランチャイズ加盟店は190店舗。FC比率は26.0%で、直営店主体の店舗展開を行っている。餃子の王将は直営店が多い為、マクドナルドなどFC比率が高い外食企業と違い、各直営店の家賃や人件費の負担が重く、固定費が高いために損益分岐点は高めではある。

そういった費用構造でも、2023年度実績では、営業利益率は標準値の10%には届かないが、8.6%は確保しており、収益力に問題はない。貸借対照表を見て財務状態を分析しても、自己資本比率が74.6%と財務基盤は盤石であり、経営の安定性は評価できる。上場企業だから資本効率(ROEが10%以上なら投資価値があると判断され、 5%以上なら合格点、15%以上なら優良企業といわれる)も重要指標として見られるだろうが、餃子の王将のROEは10,20%だから投資家にも一定の評価はされているだろう。ちなみに現在の株価は7,700円(24年4月10日時点)である。

直営店の比率が高いと、コロナ禍のように急激な客数の減少が起こると、たちまち営業赤字に転落することがある。しかし、王将は2021年3月期に60億7300万円もの営業利益を出しており、前期と比較し、わずか2割の減益に留めるといった健闘をしている。

何故それらを可能にしたのか、その主要因の一つが、テイクアウト・デリバリーの業容拡大に努めたことであり、コロナ禍に「レンチンシリーズ」の新発売や、デリバリーサービスの対応店舗拡大に動いたことが功を奏したようだ。2021年3月期のテイクアウト・デリバリーの売上高は前期の1.6倍となる246億800万円で、売上高の構成比率は2割から3割に増加しており、コロナ収束後の現在も、テイクアウトは好調を維持している。

 

 

 

(単位:百万円)

 

2019年3月期

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

売上高(前期比)※1

81,638(104.5)

85,571(104.8)

80,616(94.2)

84,775(105.2)

93,022(109.7)

直営店既存店売上伸率※1

102.3%

104.0%

92.8%

103.1%

108.7%

売上総利益(率)

57,261(70.1)

60,148(70.3)

56,088(69.6)

58,175(68.6)

63,657(68.4)

営業利益(率)

6,924(8.5)

7,698(9.0)

6,073(7.5)

6,959(8.2)

7,981(8.6)

経常利益(率)

7,310(9.0)

8,084(9.4)

6,867(8.5)

13,024(15.4)

9,140(9.8)

当期純利益(率)

4,189(5.1)

5,311(6.2)

4,287(5.3)

8,807(10.4)

6,213(6.7)

総資産

63,950

67,538

91,154

89,405

84,103

純資産(自己資本比率)

46,872(73.3)

50,305(74.5)

52,952(58.1)

59,098(66.1)

62,770(74.6)

王将フードサービス決算情報より(2023年3月)

 

 

 

 

同じように見えても大阪王将とは別会社!

同じような看板でも、お客さんにとって紛らわしいが、別会社であるイートアンドが展開する大阪王将である。双方が餃子を主力商品にして事業展開しているが、イートアンドの王将は食品販売・卸が中心の会社で冷凍食品である「大阪王将 羽根つき餃子」はCMでも有名だろう。同社は2023年2月末時点で463店舗もの飲食店も運営し、売上高の4割は飲食事業で構成されているが、そのうちの8割程度はフランチャイズ加盟店である。大阪王将は店舗内にも調理ロボットを設置し、調理ロボットが作る焼飯などが、テレビでも紹介されて、話題になった店でもある。

大阪王将とは餃子を看板にしながらも、経営路線や事業構造が違う。餃子の王将は調理ロボットを使わず、セントラルキッチンにもあまり依存せず、店でコックさんが作ることが魅力の一つである。各店舗の裁量で店独自のメニューも開発し販売できる。本部がチェーンとしての統一性を遵守する為に、徹底したマニュアルで厳格な管理をするのではなく、各店舗には最低限の基準を守らせて自主性を引き出しているといった本部とは緩やかな関係を構築しているようだ。これらを実現する為に、人材育成には相当力を入れている。料理人を育成するための王将調理道場、店舗のマネジメントを学ぶ王将大学、などの教育システムは有名で、常に質的向上を図っている。

 

 

餃子の王将の個性ある店の雰囲気!

餃子の王将では、統一された王将用語があり、代表的な用語では、餃子1人前の注文が入った時、イーガーコーテルと言って厨房にオーダーを通している。イーは1、ガーは人前、コーテルは餃子という意味らしく、オーダーの通し方でも、中国の雰囲気を醸し出しているようだ。

一人客も多く、カウンターに座り調理人の華麗なる鍋捌きを見ながら、美味しくボリュームのある中華料理を堪能しているようだ。少量盛りのメニューであるジャストサイズは一人客の酒の肴としてありがたい。メインターゲットのファミリー客にはいろいろ一品メニューを注文して分け合い家族団らんの場として活用する価値が大きい。

あらゆるコストの上昇などでラーメン店経営の負担が多く、倒産する店が増加している。また、それらが要因でラーメン一杯1000円の壁が話題の中、王将のラーメンは安くて美味しい。王将ラーメンは580円(税別)、キムチラーメンは530円(税別)、味噌ラーメンは550円(税別)円と驚きの安さで提供されている。

 王将は焼飯470(税別)円も安く美味しさには定評があり、コックさんのムリ・ムダ・ムラのない動きと華麗なる鍋捌きには魅了される。あれだけ注文数が多い厨房で働くと熟練度合いが高まり、調理スキルもアップするでしょう。カウンターに座って、厨房の中でコックさんが素早く料理を仕上げる華麗な動きを見ながら待つのもいい。客にとってはお得感がある品揃えだが、原価率31%ときちんと原価管理もされているのは感心する。



王将とバーミヤンとの違いと今後の動向!

 

中華ファミレスチェーンで、すかいらーく傘下のバーミヤンも、本格中華がリーズナブルに楽しめるファミリーレストランである。バーミヤンは1986年に開業し、どの店に行っても同じ味をスローガンにチェーンとしての統一性を遵守した店づくりになっている。

 

各店が均一の味で低価格の料理を提供するために、マニュアル化した手順のもとでパートさんが主に調理を行っている。セントラルキッチンで下準備された半加工品や下味調理された食材を店舗の厨房で最終加工し、お客さんに提供している。他業態に比べて冷凍食材を使用しないなど、鮮度を重視したメニュー作りもされている。

 

現場への調理指導は、各店舗の端末へ調理手順を動画配信するシステムが配備されたり、技能検定制度を整備するなど教育訓練は徹底されている。DXにも積極的で、タッチパネルによるオーダーシステム、配膳ロボットによる料理提供、セルフレジも今年の上半期中に全店で完備する計画で省力化投資にも力を注ぎ、効率化を追求しているようだ。

定着した配膳ロボットだが、通常、人の接客だとお客様が歩くと従業員がお客様に道を譲るものだが、配膳ロボットが来ると客の方が配膳ロボットに道を譲るのは見ていて滑稽だ。でも、伸びては困るラーメンや泡が消えたら価値が減る生ビールを配膳ロボットに運ばせるのはいかがなものだろう。効果と効率を考え運ばせるものを考えた方がいいと思う。

 

すかいらーくは、外食売上ランキング3位で外食御三家といわれて高度経済成長期を支えた外食の代表企業の一つである。ガスト(1,272店舗)やバーミヤン(354店舗)などお手頃価格で幅広い利用動機に対応し全国に多店舗を展開するファミリーダイニング事業と、しゃぶ葉(282店舗)など、専門性が高く外食ならではの豊かな体験や価値を提供するカジュアルダイニング事業の両輪で、顧客の多様化する外食のニーズに対応している。(店舗数は2024年3月時点)

 

 

両店の違いを筆者の視点で見比べてみたい。

 

店舗数は餃子の王将729店(2024年3月時点)、バーミヤン354店(2024年3月時点)であり、店舗数は倍の差がある。100席程度の大型標準タイプ店で郊外型が中心のバーミヤンに対して、規模も立地も様々な餃子の王将。家族連れで行くのは、ゆったりと落ち着いた雰囲気でくつろげるバーミヤンを好む人も多いが、近くにあまり店がないといった不満があるようだ。

店舗経営で、顧客満足度を高めるために重視するのは、QSCである。Qは品質、Sはサービス、Cはクリーンリネスである。

Qの品質に於いて商品力と価格のリーズナブル性は、甲乙つけがたく思えるが、裏メニューなどメニュー以外のカスタマイズ化は餃子の王将の方が柔軟性があり聞き入れてもらえて満足感が増す。バーミヤンは料理提供のほとんどを時給(標準タイプ)92円の配膳ロボットが担っており、ホールに店員さんも少ないので言いにくい点は否めない。

Sのサービス(接客)に於いては、餃子の王将は気さくでフレンドリー感があり特に違和感はないが、バーミヤンの方が丁寧で気配りのある接客であろう。Cのクリンリネスは、店内の清掃の質を表し、特に衛生的、見た目の清潔感が問われるが、従業員の制服の着こなしも含め整理・整頓・清潔・清掃は、バーミヤンの方に軍配が上がっている気がし、餃子の王将に行く客は、あまりそこまで要求しないように感じる。

上記のように、ターゲット客やメニュー内容は似ている両社だが、中華料理店だけの単一事業で市場を深耕してシェアを高める餃子の王将と、複数の業態を開発して複数ブランドのシナジー効果を得ながら、また多角化のリスクを分散するバーミヤン。異なる経営路線の両社の事業展開を、今後も興味を持ちながら見ていきたい。