中小企業診断士/行政書士 中村事務所

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廃業する個人ラーメン店が増える中、店舗数を増やす丸源ラーメンの魅力!

廃業する個人ラーメン店が増える中、店舗数を増やす丸源ラーメンの魅力!

今や日本人の国民食とまで言われるようになっており、昔から根強い人気を誇るラーメン。多くの国民に愛されるラーメンを提供するラーメン店だが、日本人の食生活に欠かせないラーメンだけに外食だけではなく、食品スーパーやコンビニなどあらゆる小売店で販売される中食・内食マーケットとの異業種間競争も激しい。

 

ラーメン店は、独立志向の高い人の開業の選択肢や趣味と実益を生かして開業する定年退職者の受け皿にもなっている。しかし、いくら好きでもそれを生活するための手段として事業化するラーメン店の経営は違う。簡単に開業できそうに見えても、そう簡単ではないのが、倒産件数に如実に表れている。

 

 

帝国データバンクによると、ラーメン店は全国に1万8000店舗あり、需要は6000億円市場と推計されるが需要のわりに争う店が多く競合店がひしめくために、なかなか値上げができず、ラーメン業界には独自のデフレが推進されている。ラーメン店の倒産理由のうち、多くを占めるのが「競合店との競争激化」だった。

 

そのラーメン店、約1万8000店舗のうち約半数が個人店(経済産業省の経済センサス活動調査)であるとの事。出店したい業態として人気なラーメン店は、新規参入の障壁が他業態に比べ初期投資額が低い半面、商圏内での同業店舗の乱立で同業者競争が激しく、また、他業態店との競争などで限られたパイの奪い合いが激しくレッドオーシャン化が進みやすいのである。そのため、味で差別化を図ろうと店は努力するが、お客さんになかなか受け入れてもらえず、価格を安くしたり、割引券など各種クーポン券を積極的に渡して集客しようとするので、結果的に低価格戦略による消耗戦を強いられ、淘汰されるのがよくあるパターンである。

 

最近はインスタグラムなどSNSを駆使して情報を発信する店も多く、店のファン拡大に努める店も多く、また、海外での認知度も高まったことでインバウンド客も獲得するなど追い風が吹きつつあるラーメン業界。成熟経済の日本の中で業態の陳腐化サイクルが短い外食業態の中で、ラーメンは特に「鮮魚系」「つけ麺」など、トレンド変化が著しいく、新たな味と共に次々にオープンする新規出店者との生き残り競争が激化している状態。

 

また、需要や競争の実態など厳しい外部環境だけでなく、内部環境から見ても採算をとるのが厳しい状況に陥るなど費用の圧迫が著しい状態だ。幅広い層から愛されているラーメンだが、食材・光熱費の高騰や人手不足・賃金の上昇などが影響し、倒産する店が増えている。スープづくりには欠かせない豚肉や鶏肉・ガラなどの食材の高騰に円安も加わり、エネルギーコストの負担も大きい。ラーメン店は特に一日中スープを炊くのでガス料金の値上がりは相当に苦しいだろう。

 

 

資本金や従業員数の少ない個人企業のラーメン店の存続が厳しく、物価上昇などの状況が変わらなければ、今後もさらに倒産件数の増加が予測される。

 

 せっかくコロナが収束し、人流が復活し、インバウンド効果で外国人旅行者も増えてきている中、日本のラーメンは外国人旅行者にも人気で需要は伸びているのに、供給側の要因でその恩恵を享受できないのは残念なことであり、もったいない話だ。ちなみに、観光庁の訪日外国人消費動向調査(2023年7~9月期)によれば、訪日客が日本滞在中に行ったことでは、「外食」が首位であった。その内訳で「1番満足した飲食」(単一回答)は「肉料理(焼肉・すき焼きなど)」が32.2%と首位だったが、その次の2位が「ラーメン」18.8%、だったようだ。

  

人気市場だけに参入業者が多く、競争はさらに激化している。各店とも、価格、個性ある工法、麵やスープに使う独自の食材の工夫、トッピング内容、などで差別化を図っているが、競争優位に立ち店を存続させるのは、店を取り巻く環境が厳しい中で難しそうだ。

 

価格に於いても1000円の壁があり、その制約条件の中で、各店は競いあっているが、このコストプッシュインフレの中でも、ラーメンは1000円未満と内的参照価格(消費者が頭の中で抱いている基準価格)で判断する人がまだ多く、価格を上げられない店が多い。そのため、採算割れする店が増えて、資本力のない個人店の淘汰が進んでいる状態である。

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総店舗数の半分を占めるラーメンチェーン店!

ラーメン店にとっては、水道光熱費の上昇、円安影響も含めた原材料高、人手不足や人件費の高騰は経営を困難にしているが、ブランド力のある店は採算性を重視した値上げを順調に進められて利益を確保している。また、インバウンド客から見れば、海外と比較して安く、円安も加わって高い価値を評価しており、満足度が高いようだ。

順位

チェーン名

2022年7月

2023年7月

増減率(%)

1位

餃子の王将

734

731

-0.4

2位

リンガーハット

586

567

-3.2

3位

日高屋

403

408

+1.2

4位

幸楽苑

404

385

-4.7

5位

大阪王将

359

341

-5.0

6位

Sugakiya

257

258

+0.4

7位

来来亭

250

249

-0.4

8位

天下一品

229

220

-3.9

9

丸源ラーメン

183

196

+7.1

10位

らあめん花月

199

190

-4.5

11

山岡家

168

174

+3.6

12

田所商店

155

162

+4.5

13位

くるまや

148

144

-2.7

14位

魁力屋

121

127

+5.0

14位

町田商店

112

127

+13.4

16位

8番らーめん

116

115

-0.9

17

一風堂

104

106

+1.9

18位

ぎょうざの満州

101

102

+1.0

19位

どさん子ラーメン

97

93

-4.1

20位

一蘭

83

84

+1.2

(出典元:日本ソフト販売株式会社より)

 

丸源ラーメン(9位)の勢いが止まらない!

店舗数が横ばいか減少するチェーン店が多い中、またこの厳しい環境下で丸源ラーメンは店舗数を年々増やしており、196店舗2023年7月時点)を出店している。店舗数の伸びが鈍化しているラーメンチェーン店の中で前年同時期に対して13店舗店を増やしており群を抜いている。この店のラーメンは標準化が普通のチェーン店でありながら、「ずば抜けて特徴がある個性ある味ではなく、安心できる無難な標準味とも一線を画した美味しさのラーメン」だと思う。ラーメン事業の中で、コア店舗である丸源ラーメンはご家族連れ向けに適した業態であり、その丸源ラーメンのコンセプトを踏襲しながらもより高い専門性を打ち出して、ラーメンマニアから家族連れまで幅広い顧客層を標的にした店づくりの二代目丸源、ラーメンマニアをターゲットの選定した小型店の熟成醤油ラーメンきゃべとんなど、新業態の開発も進めている。市場を細分化し、ターゲット客を選定し、その中で自店の立ち位置を明確にするなどマーケティングにも力を入れている。そうやって、市場の棲み分けを行いながら新たな業態を順次投入している。

 

筆者が訪問し、丸源ラーメンの採算を推計すると、ランチ時の1人客が座るカウンター席の回転率を計算すると2.5回転であった。この店は料理提供も早く、25分間隔でお客さんが入れ替わる。粗利益も十分確保しているような価格設定になっており、これだけ効率的(粗利益×客席回転率)に入ると、儲かるだろう。人員も機会損失を回避することを重視したシフト管理になっており、昼のピーク時はキッチン5人ホール5人と万全な体制で溢れるお客さんを捌いている。働いているスタッフさんも元気で感心した。こんな感じで儲かる仕組みができていれば、収益性・成長性・将来性があるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

追随する丸千代山岡家(11位)、田所商店(12位)一風堂(17位)の勢いも著しい

丸千代山岡家は1980年お弁当屋のフランチャイズとして開業し、一年間ノウハウを習得したのち、直営店を展開。1988年ラーメン店の山岡家をオープンし、確実の店舗数を増やし今は185店舗(2024年4月時点)を展開している。セントラルキッチンを持たず、各店舗でスープを仕込んでいる。店舗立地は主要国道沿いの大型駐車場を併設した店舗が中心となり、新規客を常連化し、固定化させて絶対的な支持客を確保し顧客基盤が盤石である。それらリピーターの多さに強みがあるそうだ。年商264億円、経常利益21億円、経常利益率8%を達成し、過去最高を更新するなど業績を伸長させている。

一風堂は1985年に福岡県福岡市中央区大名に最初のラーメン店「博多 一風堂」をオープン。国内の直営店の運営は株式会社 力の源HDが担っている。国内は135店舗、海外は15か国・274店舗(2023年12月時点)を展開している。海外でラーメン人気を押し上げた立役者は「一風堂」と言われているくらい知名度は高い。2024年3月期の連結決算で、純利益は前期比34.3%増の21億8600万円となった。売上高は前期比21.7%増の317億7600万円、営業利益は同44.5%増の32億9600万円、経常利益は同50.3%増の34億8900万円となっている。

 

田所商店(味噌ラーメン専門店)の店舗数も、2019年の109店舗から、コロナ禍に於いても11店、14店、21店、7店 と毎年増加し続け、4年間で48.6%の大幅増と勢いがある。運営は株式会社トライ・インターナショナルが担っており2003年に設立されて、業歴がまだ20年と比較的浅い企業である。事業内容は味噌らーめん専門店の経営・フランチャイズ展開、自社工場での各種味噌・タレ類など、食材および加工食品の製造・販売・輸出入などである。社長の田所史之氏は、ラーメン・居酒屋で起業し、バブル崩壊で挫折した経験を持っている。その反省を踏まえ、「田所商店」で再スタートさせたとのことである。田所氏の実家は味噌の醸造を家業としており、「田所商店」の創業にあたっては「置き味噌」に徹底的にこだわったそうである。チェーン売上高 13,297(百万円)、うち海外売上高 995(百万円)(2022年度実績)となっている。

 

国民食ラーメンは他業種との競争も激しい!

ラーメン店は同業他店だけでなく景気動向により、中食(スーパーやコンビニの総菜麺)・内食(食品スーパー・ドラッグストア)とも戦っている。

物価は上がっても賃金が上がらない人が多い中、国民食でもあるラーメンも大きな変化が生じている。内食・中食・外食と各市場が限られたパイを奪い合う競争が激しくなっている。内食では、価格は高めだが簡単に食べられるカップ麺より、価格が安い袋麺の方が売れている。具材が追加しやすく自分好みのラーメンができるのも人気のようだ。確かにコンビニでカップヌードルが250円で売られ総菜麺も500円~600円で売らているが、高いイメージしかない。時間節約型のお客さんが買うのだろうが、普通はあまり買わないのではと思う。以前はコンビニの中心客は若者だったが、その若者もこの物価高の中で節約志向が浸透し、最近は若者のコンビニ離れが顕著で、近くで買い物を済ませたい足腰の弱い高年齢層のシェアが高まっているようだ。
 中食は食品スーパーやコンビニで持ち帰りレンジでチンすれば食べられる具材もパックされて販売されている。単身世帯の増加で惣菜市場の拡大に連動しているようだ。

外食もテイクアウトで持ち帰って食べる人が多く、コロナ収束後も一定程度の割合で定着しているようだ。ラーメン店の倒産が増えているが、袋麺も安く美味しいから強敵だ。競争相手は同業ライバル店だけでない。物価高騰と節約志向で外食と内食の競争が激しくなる。

ちなみにラーメンチェーン店売上で首位は餃子の王将である。個人経営のラーメン店は過小資本のために、人通りがそれほど多くない2等立地の狭小店舗に出店するパターンが多い。客席回転率あ上げる時間帯は別として、ラーメンだけでなく、ビールや唐揚げなど単価を上げる努力が必要であろう。お酒を飲んだ後の締めで活用されるパターンが多いが、一軒目の需要を狙って単品メニューや酒類の充実を図り可能性を探るのも、その立地や顧客のポテンシャルを分析し施策に反映させるのも一つの手であろう。

 

商品で差別化が困難なら価格を下げて集客力を高める店が多いのは仕方ない判断でもある。今は物価高などで採算が取れないから、段階的に価格を上げて客の動向を見るが、競争が激しいから、顧客が他店に行くのではないかと心配し、なかなか上げられないようである。

価格決定要因には、①コストプラス法②需要志向的価格決定法③競争志向的価格決定法がある。コストプラス法のようにかかった費用に自店の利益を加えて売価にすれば簡単で赤字になる事はないが、そう単純に行く話ではなく、お客さんは価格に敏感だから、プライシングは難しい。特に今のように賃金上昇が物価高騰に追いついていかない経済状況では、需要志向や競争価格志向が価格決定要因に大きく影響するものである。

 

 最近、近くでラーメン店を開業する準備をしているご夫婦に遭遇した。ご夫婦がお互いに好きなラーメンを実際にやってみようと、退職金を元手に居抜き店舗を賃借し開業するらしい。ずっと会社勤めをしていて飲食店の経営経験がなく、美味しいラーメン作りの為に繁盛店に修行することなく、自らが食べ歩きで蓄積した各人気店の味を模倣しながら融合した独自のラーメンを開発して開業するとの事。この大胆な行動に驚きである。廃業が多く費用構造的にも逆風が吹くラーメン業界の中、この挑戦は無謀すぎないかとお話ししたが、頑張ると言っておられたので、温かく見守るしかないが何とか頑張って食べログでも高評価の店になっていたので再度驚いたもの。 

 ラーメン店は比較的簡単に開業できると思う人が多いし、また、素人でも趣味の延長で経営が可能と思いがちなので、ラーメン店を開業したい考える人が増えている。定年して、会社人生を終えたサラリーマンが、人生100年時代まで、たっぷりある時間をどう有意義に過ごすかを考えた時、ラーメン屋でもやるかと単純に考える人もいる。やってみたら、そんなに簡単ではなかったと後悔すると思う。人気店になるのはとても難しく、開業から1年以内に閉店するラーメン店は実に4割、開業から3年以内にはさらに3割近くが閉店に追い込まれているのがラーメン業界の実情だ。 

安易な気持ちで開業する人たちが増え続けることで競合店数は増え続け、多くのラーメン店が価格競争に埋没し、結果的には閉店へと追い込まれている。 開業費用は他の業種業態と比較したら低いかもしれないが、決して安くはない。老後の生活資金として蓄えていたお金を無駄に使わないようにしないといけないと思う。

ラーメンを好きの日本人。ラーメンの食べ歩きをしてSNSに投稿することを趣味にしている人も多くおられる。食べるのが楽しみなのはいいだろうが、店の人の苦労も理解して食べてもらいたいものだ。