中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

コロナで先送りされる2025年問題!

コロナ廃業が注目される中、後継者不在で廃業が懸念される「2025年問題」が再燃してきているようです。

後期高齢期に突入する団塊世代が事業承継できない為に、いつまでも引退できないようでご苦労されているみたいですね。

 

そんな状態に追い込まれているのに、人ごとのように考えて準備の先送りをする中小企業はまだまだ多いですね。

 

子がいない、いるが継がない、幹部や従業員はみんな敬遠、増えつつあるM&Aによる承継も拒絶する会社が多いのが現実。

会社を存続させて、顧客、取引先、従業員を守る為にも、真剣に取り組まないといけないと強く思います。

 

 

ここで事業承継についての取組みを2例紹介します。

 

 

(1)他人で受け継がれる老舗喫茶店

 

 

大阪市中崎町。大阪の都心・梅田のお隣で庶民的な昭和の町の風情を残す昔ながらの街並みにショップやクリエイターが集い、独自の文化を形成しているエリアである。その中で、昔ながらの純喫茶風情を貫く老舗純喫茶店がある。

 

ちなみに純喫茶とはアルコールを提供しない喫茶店のことである。昔、町の喫茶店が賑わったのは地域に於けるコミュニティの場だけでなく、人との待ち合わせ場所に最適だったからである。

 

だが携帯電話の普及が進展するのと連動して存在意義が薄れてきたのである。だから、喫茶店は生き残りの為に、モーニングや食事メニューの充実で集客しようとしていたのだが、純喫茶の場合はそういうことはせず、本当にコーヒーの香りや質で勝負していたのだから純喫茶の存続は普通の喫茶店より困難だったと思う。

 

当時、店の常連だったお客さんが、店主から「そろそろ店を閉めようと思う」と打ち明けられ、自分の憩いの場がなくなる寂しさと、価値ある店が消える勿体なさが相俟って「もったいない。待って、この店を閉めたらここで知り合った常連さん達の行く所がなくなる。じゃあ僕がする」と思わず言ったらしく、それがずっと続いているとの事である。

 

そうやって、その店は他人で受け継がれ歴史を積み上げていることで有名になり遠方からもお客さんが訪れるようになったのだ。別に美味しい食事や安さで集客しているのではなく、昔から変わらないコーヒーの味と雰囲気で店が継続できているのである。

 

何十年も続いてきた純喫茶店には、そのお店を支えて応援してきたコミュニティが存在する。そうしたコミュニティの結節点として、昭和の香りを引き継ぐお店を、変な儲けや権利関係を抜きにして「譲る店」として引き継ぎ、その空間と共にコミュニティをも継承して、地域での存在感を大切にしてきたのである。

 

その店の2代目を継いだのは常連さん、3代目は大学生、4代目の今は主婦が引き継ぎ、店主となっている。承継の条件として①常連客を大切にする、②看板商品のブレンド豆を変えない、③大規模改装はしない、等があるようだ。

 

昭和の頃と市場環境が目まぐるしく変化したカフェ市場。そのカフェ経営は厳しい状況にあるが、それでもやりたいという人は多くいる。譲り店がもっと増えると、低コストで開業できて、最初から営業基盤である常連客も引き継ぐことになりリスクが低減できる。煩わしい人間関係に疲れた会社員の人達にも最適なチャンスかもしれない。

 

また店を引き継ぐ新店主のメリットとして、お店を閉める時が来ても、次の店主が見つかれば、閉店時にかかる撤退費用と手間を減らすことができる、等がある。

 

一般的に、店をやりたいと思っても、物件の取得し内外装をしたりと初期投資がけっこう必要で、それらが開業のネックになる。また撤退しようと思っても原状回復義務が生じてスケルトン撤収となると、その為の費用も大変だ。これらを気にする必要がないことは大きい。

また若手へのチャレンジショップとして貸し出し、地域活性化を図るのもいいだろう。日本全国に60万店ある飲食店の中には高齢経営者の小規模店が多く存在する。その店の地域における存在価値をうまく伝承させ街の明かりを灯し続けて欲しいものである。

屋号、味、内外装、備品、等はそのまま引き継ぎ、店主が変わっただけの店。複雑な権利関係は抜きにして、自分の分身である店を信頼できる人に任せ、自らは今度は客になってその店を見守り続けるのは素晴らしいことだ。

事業承継は、①経営の承継、②資産の承継、③知的資産の承継、の3つがあるが、これらの承継が複雑でややこしく、事業承継のネックになっている。だから、変な欲を出さなければこういう事業承継も可能だなと思った。少子化と子供の意識の変化による親族内承継が難しくなっている。その為、自分の代で終る予定で創業した経営者を除き、社外の第三者への事業承継を検討していると考える事業者が、中規模企業は約4割、小規模事業者は約5割おり、親族外のみならず、社外にまで後継者を求めようとする中小企業の姿が浮かび上がってくるようだ。

 

 

2025年問題である後継者難による中小企業の廃業問題もこれらを参考にして解決してもらいたいものである。団塊世代後期高齢者層に突入する4年後、245万社の経営者の内、半数が後継者不在と言う事実に真剣に向き合わないといけないだろう。そうしないと2025年までにGDP22兆円と650万人の雇用が喪失し、日本経済に大打撃になる。

 

 

 

(2)事業承継で店を再開する親孝行の子供達!

 

父が創業し地域で15年続いた門真の居酒屋。3階建て自宅ビルの1階で営業し、サラリーマンのたまり場になり、また地域住民のコミュニティにも利用されていた。家族は創業者の父と母、店の設計をした建築士の長男、有名割烹店で修業し店の調理長を務める次男、の4人家族だ。

 

調理長の次男は、真面目で責任感があり内向的な性格だが調理人としての技能はかなりのレベルである。修業した店のレベルが高く、関西料理界でも有名な店である。そのキャリアと自らのセンスを注入した創作料理はお客様には高評価であった。建築士の長男も昼は本業の店舗設計に従事し、夜からは店の手伝いと懸命に働き店の繁盛に貢献した。

 

自社ビルだから通常は必要な家賃という固定費は不要で、その分を食材原価に充当し原価率50%の商品力を強みとした競争上の差別的優位性を確保した店づくりを徹底した。それらはお客様を魅了し、その美味しさとリーズナブルな価格設定にはご満足を頂き、大概の新規客は常連化・固定化といった好循環になっていた。

 

外食業界の費用の適正値は、業態によって異なるが、食材35%、人件費25%とFLコストを60%内で抑制するのが標準である。そして業務費10%、賃料や減価償却の管理費は20%、営業利益10%位となっている。

 

 

業態特性によって若干の費用割合が変化するが、大概はそういう費用構造になっている。大型店より小型店の方が営業利益率が高いのが普通である。

 

繰り返すが賃料で不要でその売上構成比15%~20%の費用が不要なのは絶対的なアドバンテージであり、これを競争優位の武器にしなければならない。

 

順調満帆に経営していたが、調理長である次男が体の不調を訴えるようになり家族全員が心配していたが、次男も責任からか何とか誤魔化しながら仕事をしていた。そんなある時、急に動悸が激しくなったりめまいが起こったりと立つことさえできない状態になり、病院で総てを検査してもらったが何の問題もなしとの事であり、医師の勧めで心療内科に行ってみたらと勧められ行くことにしたのである。診断結果は、パニック障害鬱病である。この精神的病気を治すには相当な時間が必要だということで、取りあえず次男の体調を心配して店を暫く休むことにした。

 

新たに調理人を雇用し店の再開も検討したが、店の強みである商品力を維持することは困難で、中途半端な商品を提供して店のブランドイメージを低下させるとそれを取り返す方が大変だから次男の回復を待つことにした。店を賃貸することも検討したが、ビルの構造からあまり他人を入れることに否定的だった父が頑なに拒絶しそれは難しかった。

 

しかし、次男が一向に回復せず、創業者の父が高齢化し80歳となり、2年前にいったん店を閉める事にした。家族全員の思い入れがある店、また1階をずっと休眠状態にするのは勿体ないとの思いからどうするか判断に迷っていたがやむを得ないことだった。

 

2年の年月が経ち、人前に出ることも出来なかった次男だったが、毎月病院に通院し治療に専念してきた甲斐があり、何とか昨年末には回復の兆しが見えてきた。そして次男は仕事に回復できるまで精神的に病んでいたものが払拭できたのである。

 

過去の反省を踏まえ次男に極端な負担が行くことがなく、みんなが負担を平準化させる仕組みと要員体制を整備させることにした。リニューアルに向けた設備投資や新たなスタッフを雇用し商品・サービスの質的向上に向けた取り組みも強化していく。その為に、小規模事業者持続化補助金、事業承継補助金、日本政策金融公庫の創業融資を活用していくつもりである。

 

 

後継者不在で廃業する飲食店が多い中、途中、不測の事態で閉店はしたが、絶対にこの店の暖簾は守り続けようと兄弟で創業者の父に対して誓った。父はすごく喜ぶとともに後を継いでくれる息子たちに感謝していた。息子たちもいい親孝行ができたと喜んでいた。

 

 

今年1月中旬にリニューアルオープンする予定だったが、コロナ感染により今躊躇している今のうちに準備をしっかりして地域における存在基盤の確立に向け頑張っていきたいと気合が入っていた。店を再開する事が耳に入った常連さんが、「いつお店を開けるんだ?」としつこく聞いてくるそれだけ期待されているのだ。頑張ってみんなの期待に応えたいと確固たる決意で臨んでおられるので頼もしいものである。

 

以上が事業承継に取り組む飲食店の実際の話である。

 

「会社は初代が大きくし、2代目が傾け、3代目が潰す」とはよく聞く。中小企業を倒産させるのは、三代目が6割と最も多く、二代目・三代目社長を足すと9割を超えているとの事だ。

 

一方で「初代が会社の礎を築き、二代目はそれを発展させ、三代目は新境地を拓くもの」との表現もよく用いられ、永続的な成功発展を目指す会社もある。要は後継社長が勘違いすると会社は潰れるとの事である。中小企業の事業承継がいかに難易度の高いかが、この点からも理解できる。

 

もうそんなに遠くない「2025年問題」だが、できることから確実に推進しないと大廃業時代の到来と懸念されることが現実になってしまう。承継は計画的に推進していきましょう。

 

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