昨年、消費税増税前に大正12年創業の老舗酒店が95年の歴史に幕を閉じました。
多くのマスコミが取材に殺到し、新聞の一面に掲載されました。国会の質疑で取り上げたいと国会議員もお見えになりました。
廃業の直接の理由は後継者不在です。後継ぎがいないので事業継続が困難となったのでした。ご自身も高齢で介護認定3を受ける状態となったのでやむを得ない事です。事業継続は難しいなと思いながらも閉店する決断ができず、ズルズルと悩みながらも経営してこられました。
消費税増税で会計処理がややこしくなってくるので、これを機会に廃業しようと決断されたのです。
地元の皆様に愛され続けた店ですが、高齢による限界と後継者不在により事業承継が困難、そして消費税増税への対応が難しいと、廃業せざるを得ない理由が重なったことによるものです。苦渋の選択で、高齢のご夫婦も残念がっておられました。
今後の一切の手続きを私が受任しましたが、 今、昭和の酒販免許を持つ酒屋さんを買収したいと私の事務所に問い合わせが多く来ています。また既存の酒販卸が販路拡大の為に買収したいとの声もございます。
店舗だけでなく盤石な顧客基盤などの営業権も価値があるようです。95年の歴史が物語るのでしょう。
そういう買収案件が多いので、いいタイミングかもしれないですね。
寂しい話ですが、社会資源の有効活用として、円滑な事業譲渡をしていきたいと思います。
もし同じように、廃業を予定されている事業主さんは、是非ともご検討ください。同じリタイアでもハッピーリタイアメントの方がいいと思います。
それにしても95年の歴史がある酒屋さんとはすごいものです。会社や店を何代も続けるというのは難しいですから大したものですね。
「企業の寿命は30年」とよく言われます。会社は30年が経過するころ、節目がくるものです。経営者も年齢的にも30年が区切りでしょう。それと環境変化が大きな要因となります。30年も経過すると様々な環境条件が変わるため、新たな時流に適応できなければ企業は消滅していきます。
また、会社は初代が大きくし、2代目が傾け、3代目が潰す」と、3代目の時の倒産も多いらしいです。一方で「初代が会社の礎を築き、二代目はそれを発展させ、三代目は新境地を拓くもの」と堅実経営を実践し、永続的な成長発展を目指す会社も存在します。要は後継社長が勘違い経営をすると、会社は潰れるとの事ですね。
創業者は失敗を繰り返しますが、従業員・仕入れ先・お客様の協力の元、事業を成長させ事業基盤を確立していきます。だからその人達への感謝を忘れず、その感謝報恩を経営理念に掲げている会社は多いのです。
しかし後継者はその苦労を知らず育っている人も多く、従業員へは給料を払って生活させている、仕入れ先には買ってやっている、と横柄な態度になる人が多いです。これは自分を不利にします。事業承継は経営技術の継承だけでなく、心の部分を引き継ぐ事が大切だと思います。
そういう中で頑張って商売された社長さんは孤独なものであったと思います。自分一人が苦労し周りを信じられなくなった時もあるでしょう。その影響からか、周りと情報を共有することをせず、自分一人で抱え込む社長が多いです。
この酒屋の元経営者も同様です。85歳、介護認定3を受けています。現在、高齢夫婦だけで暮らしていますが財産は主人が一元管理し、奥様はその実態を知りません。ご主人が総て自分で抱え込んでいるのです。最近、ご主人が体調を崩し病院通いが増えました。
今後いつどうなるか分からないから、遺言書の準備を促しますが、笑ってその場を逃げられます。奥様を通じてもお話ししますが、当のご本人が、聞く耳を持たずです。
残された人が大変なので困ったものです。今後も言い続けるしかありません。もし明日、認知症になったら現有財産の処分など法律行為ができません。もしもお亡くなりになることとなれば、どこにどれだけ財産があるかを奥様もご存じありませんので大変なことになります。
一番下のお子さんは障害を抱えておられるようです。ご主人も自分のなき後が気がかりのはずなのに、中々準備をしてくれません。
周りもこんなことを言えば縁起が悪いしご主人が機嫌悪くなるからと中々言い出しにくい状況です。私も「家族信託」を含め様々な提案をしますが、あれこれと自分の商売の為に押し付け販売をしていると思われてもいけませんので、あと一歩押しが弱い状況です。
「備えあれば憂いなし」です。今後も諦めることなく、このご家族の為に良き提案をしていきたいと思います。