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長女夫婦が離婚することとなり、会社としてはまた後継者探しをすることとなった。今度は次女がタイミングよく結婚することとなり、これがまた有名企業の出世コースを歩んでいた方であった。前回の失敗を反面教師として、会長も指導する姿勢を改めて欲しいとみんな思ったものだ。
全体会議を開き全社員に次期後継者を紹介することとなった。殆ど準備期間もないまま後継社長となった次女の婿さん。離婚しても社内に居座る長女との社内に於ける力関係も複雑で姉妹の関係も微妙になっていた。
次の後継者となった次女の婿さんには、会長も遠慮しながらいろいろと指導していたようである。経営理念もしっかりと引き継ぎ、それほど時間はなかったが実務経験を積ませ経営者として、営業力、財務判断力、社外からの信用、社内からの信頼、等を重視して教え込んでいた。元々、経営者としての資質には問題なさそうであったので、会長も、「同じ轍は踏まない」という思いで経営に対する心構えを指導していた。
新たな後継者は次女との夫婦仲もよく二人三脚で一生懸命頑張っていたので、社員もみんな協力姿勢を惜しまなかった。後継者は、まず新たな人事政策を打ち出し、会長の腰ぎんちゃくであった、古きプロパー社員を排除するなど、新体制に向けたリーダーシップを発揮した。非常に力強く頼もしいもので、皆が感心したものである。
会長に泣きつく、その古きプロパーに対して会長も仕方なしと思い、退職を勧告したものであった。
しかし順風満帆もいつまでも続かず、業績が下降気味になると夫婦仲も悪化して、ついにこの夫婦も離婚することに。
しかし、夫婦関係は悪くなってもそれはあくまでも夫婦間の私生活の話である。会社には大勢の社員や取引先・顧客がいるので、経営者として無責任なことはできない。その点が我欲の塊のオーナー一族は分かっていないようであった。
会長が社長復帰するのは年齢的に難しく、長女が社長となる典型的な身内の穴埋め人事をすることとなった。
しかし、只でさえ業績悪化の傾向にあったのに、社内のゴタゴタから社員達のモラール低下が顕著で業績低迷に拍車をかけることとなる。そして長女も辞任表明をした。
そして跡継ぎのいなくなったこの会社は、メインバンクの仲介で同業他社に譲渡することとなった。社員達も最初は買収されることへの引け目感から嫌がっていたが、いざ行くと想定外の待遇に笑顔であった。今まで独特の同族会社の中で働いてきた社員達は、新たな社風の中で外様気分もなく、働き甲斐を感じているようである。
この騒動を見て、つくづく事業承継の難しさを勉強したものである。
誰でもいいから親族に事業承継をとの強い思いから、娘婿に経営を託したが、性急すぎる承継に、娘婿の経営者としての資質や能力がないことが後から気づくことはよくあること。指名後に能力不足に気づいても他人であればともかく、身内なら今後の親族関係があるので降格させにくいものだ。
尚且つ、株式まで譲渡してしまったら大変なことになる。娘夫婦には子供がいなければ、会社が創業家の血縁以外のものとなる恐れもあるからだ。後悔しても遅い話で、後継者選定は慎重にしないといけない。