
コロナ収束後2年半が過ぎた中で、急速な回復で売り上げを伸ばし続ける外食チェーンが増えている。物価高騰で人々の節約志向に拍車がかかり、最も削りやすい外食が控えられるのではと懸念される中、この需要増に外食業界は嬉しい悲鳴だ。しかし、中には諸コストの上昇で値上げを実施し、客数の減少に歯止めがかからないチェーンもあり、優勝劣敗が明確になっている。どこにこの差が生まれるのか。
外食全体を観察すると、①コストアップ分の値上げを実施しお客さんの負担が増えた分は他の手法(キャンペーンやクーポン)で還元して業績を安定成長させている企業、②競合他社が値上げする中でコスト上昇分を企業努力で吸収し値上げせず業績を向上させた企業、③値上げを断行し客離れが進む中、客単価の上昇で補い業績の維持・向上ができている企業、と様々である。①の代表例は「餃子の王将」だ。2年間で4回の値上げを実施したものの、さらなるコスト上昇で今年2月には追加の値上げを実施。売り上げは客単価の上昇もあり、過去最高(直営・既存店)を更新しているものの、客数の伸びは鈍化。この状態を払拭するため、ポイント倍増キャンペーンを実施して客数を確保するとともに店を将来的に支えてくれるプラチナ会員(10%割引されるなど特典が充実)を獲得。顧客基盤の盤石化に向けたロイヤルカスタマーの確保で安定成長を目指している。26年度上半期(4月~9月)では、既存店ベースでは客数が前年を-0.3%下回っているものの、客単価が+7.9%だったこともあり売り上げは+7.6%と伸びている。
②の代表例はサイゼリヤだ。他店が値上げに走る中、「値上げしない宣言」を発しお客さんと約束。諸コストが上がってもオペレーションのムダを徹底排除し生産性向上のための合理的基盤を確立。それらを日々の改善活動でさらに磨き、価格を据え置いたことがお客さんから好感されている。その結果、業績は著しい伸長度を見せており、8月の売上+19.3%、客数17.1%、客単価+1.9%と客単価はほぼ同じだが、売上・客数ともに2桁成長だ。9月実績でも売上116.9%、客数114.4%、客単価102.2%と同じく前年を大きく上回っている。商品価値が高い割に低価格といったコスパ最強の店を標榜している店だ。
③の代表例は今回、取り上げるCoCo壱番屋(以下、ココイチ)である。複数回に渡って値上げを断行した結果、客離れが進み客数(既存店)は2024年9月から13か月連続で前年割れしている。諸施策を講じて対応はしているものの、減少が今も続いている。

店舗選択にはやはり価格が最も重要!
店を決定する際に、重要な判断材料になるプライシングの優劣によるものではなかろうか。物価高騰に便乗し付加価値型経営を標榜する店が増えてはいるが、店舗の選択にはやはり価格が重要になることが多い。プライシングには、①コスト志向(コストに店のマージンを上乗せ)、②需要志向(消費者がいくらなら買いたいと感じるか)③競争志向(競争他店の価格動向を見ながら設定)、といった決定の3要素がある。確かに現在のコストプッシュ型のインフレへの場合に店が利益を確保するには、値上げするのが手っ取り早い。どの店も上げているから、お客さんの理解を得やすい点もある。しかし過度な値上げは客離れを誘引するだけで、業績不振による廃業が増えている。そういった店を反面教師とし、今はどの店も値上げには慎重になっており、競合他店の動向を睨みながら判断しているのが実情だ。店としては、値上げをして表面上の売り上げが増えても、原材料費や人件費の上昇で利益を圧迫して店の利益は大して変わらない状況である。安易な値上げはリスクを背負うからと現状を我慢し、市場から退出する店を待ち残存者利益を狙う店もある。
ココイチの客離れの原因は!
ココイチは物価高騰に対応するために、値上げを実施しているが、改定頻度と上げ幅率の高さから、徐々にお客さんが離れている状態になっているのではないだろうか。要は行きたくても行けなくなっているのではと推察する。カレーを食べるだけなのにレストラン並みの価格に不満を持つお客さんもいるだろう。ココイチもここまで強気で値上げができたのは、同一カテゴリー内で首位の地位に君臨し、自社を脅かす存在が殆どないといった、競争地位的に優位に立つから強気の姿勢を崩さないとも見えるがどうだろうか。外食店にとって客数減は営業基盤の脆弱化を意味し、値上げによる客単価の上昇でその場の売り上げは確保できても、店を支えてくれる顧客の減少は将来性・成長性の観点から懸念される。

株式会社壱番屋の経営状況は!
ココイチの運営元である壱番屋は約1割の直営店運営とFC加盟店への食材などの卸を中心業務としている。25年2月期決算書を見ると、売り上げ610億円(前年比+10.6%)営業利益49億円(前年比+4.5%)、営業利益率8.1%(前年比-0.5%)だった。
今期(2026年2月期)の中間期では、⾷材の卸売価格の引き上げを実施したことで、売り上げ320億円(+8.2%)、営業利益25億円(+5.5%)と伸びてはいるものの、原材料価格の高騰は深刻な状態とのことだ。前期(25年2月期)は1年通期で仕入れコストは16億円の負担増だったが、今期は中間期を終わった段階で既に約17億円も上がっており通期では33億円の負担増を予測している。そのうち米が77%を占めており、米は先行きも不透明な状態だ。そういった環境下でも、営業利益率は7.9%を確保できており、管理技術は卓越しているようである。しかし、店舗の客数減は上半期を終了時点でも続いており、既存店ベースの前年比で売り上げは+2.2%、客数は-5.4%、客単価+8.1%と、客数減を客単価の上昇によって売り上げは何とか前年実績を上回っている状態だ。9月に入っても客数は-4.2%だ。壱番屋は将来を見据えた成長戦略を推進するためM&Aを駆使し、多業態戦略に力を入れており、ラーメン店・ジンギスカン店など異業態を66店舗運営している。また、海外市場への展開など新規市場開拓にも積極的だ。財務基盤は自己資本比率が67.5%と盤石状態を保っている。ROE(資本効率)も10.1%と東証の推奨値よりも高く、自己資本を効率活用し利益を上げている優良企業だ

課題である客数減への対策は!
もちろんココイチも歯止めがかからない客数の減少状態をけっして放置している訳ではない。①前年8月の値上げ後に大きく下落した配達代行の再生策としてウーバーイーツキャンペーンの実施、②アンバサダーの山田裕貴氏が出演するテレビCMの全国放映、③オリジナルキャラクター「ネコイチ」を活用したマーケティング施策の実施、④商品政策として期間・数量限定メニューの毎月投入、⑤QSC向上策としてWebでお客様の声を集めタイムリーに活用、などの諸施策を実施した。それらの結果、販売経路別に見ると、店内飲食(-4.3%)とテイクアウト(-8.6%)が減少している中で配達代行(+31.0%)は伸びている。
ココイチの強みはカスタマイズ化できる商品の価値と独自のFC制度!
値上げで客数減が問題ではあるが、極端な業績悪化にならないのは、ココイチに他社では模倣が困難な商品面と運営面の強みがあるからだろう。商品面は、こだわりや独自性のあるカレーとは一線を画し、誰が食べても標準的な味で万人受けするカレーだ。その標準味で市場を限定せず、ターゲット客を拡散し集客力を高めている。お客さんには、ポーク、ビーフなど5種類のカレーと辛味の増減で自分好みのカレーに調整、その日の懐具合や気分で豊富な品揃えのトッピングの中から選定できる、など自分だけのオリジナルカレーが作れる楽しさといった価値を提供している。家庭では手間がかかり避けられる揚げ物を豊富に品揃えし、自分好みにカスタマイズできるという価値の提供は魅力である。
運営面では店舗の約9割がフランチャイズ(以下、FC)であり、他人資源を活用した低コストでリスクの低い運営で多店舗展開を図っており、今や国内1.208店舗(25年9月末時点)を有している。ココイチの成功要因は、独立志向の人に最適なブルームシステムを構築したからではなかろうか。加盟者は入社時に資金は不要であり、創業意欲はあるが資金がないといった人には最適なシステムである。開業時に債務保証制度もあり、経営で一番悩む資金面において本部のサポートが強力なことは魅力だ。さらに独立後には、オーナーが経営を継続できるよう収入面も手厚い仕組みがあり、やりがいが持てる制度だ。また、一般的なFC制度は費用を払って研修を受けるものだが、ココイチはまず正社員として入社し安定した収入がある中で、店舗のオペレーション、人材マネジメントや経営ノウハウをしっかり学習してから独立するから、開業リスクと不安は少ない。本部はFC加盟店に食材を卸売りして収益を上げているから店舗数の増加は収益の拡大要因だ。また、通常のFCなら必要なロイヤリティも必要ない。本部からすればFC加盟店という安定的な販路を確立できて、店舗が儲かるように支援し店を継続してもらうのが収益機会の安定に繋がるもの。その結果として、相互が満足できるWin-Winの関係が構築できるのである。

ココイチの成長戦略は!
国内市場は成長が鈍化しており、既にココイチだけでも飽和状態で成長余地が限定されるため、海外市場に活路を見出している。海外のココイチの店舗売り上げは、全店ベースで90億円(前年同期比1.7%減)となった。為替の影響を除いた既存店ベースでは、イギリスが好調に推移したものの、中国、台湾等では前年の水準を下回り、前年同期比1.9%減となっている。現在12の国と地域に展開しており、タイ45店舗、台湾39店舗、韓国39店舗、中国28店舗を中心に224店舗の出店ですべてココイチである。5月にオープンしたグアム1号店は、初日に約100名の 行列ができるほどの盛況ぶりで現在も続いているほど人気のようだ。また、新規の開拓エリアとして、2026年春頃にオーストラリアへの出店に向けて、準備を進めている。今期はアメリカで2店舗の出店を計画。そして日経新聞によると、インドでの出店を増やすとのことだ。
カレーの本場であるインドへの挑戦は吉と出るか凶と出るか!
ココイチは今後の成長戦略として、市場の成長が期待される海外をターゲットにした市場開拓戦略に力を注いでいる。ココイチは5年前の2020にカレーの本場であるインドに出店した。インドは14億6700万人の巨大マーケットで、人口は今も伸びており2022年には中国を抜いて世界一位となった。カレー自体は宗教上の制約には配慮しながらも生活に浸透しているスパイスカレーではなく、日本式のカレースタイルを提供するようだ。豚肉や牛肉を使わず、野菜とチキンとなっているが、ルーは日本から輸入したとろみのあるものを使用。そのベースにバリエーション豊かなトッピングを提供している。現在、2店舗運営中だが、客単価も日本とほぼ同じ1500円程度で現地の人には好評のようで成功の再現性に自信を持っているようだ。現在、8割のお客さんが現地の⼈であり、その価値を評価してくれているようである。出店目標としては現在の2店舗から、今後10年で約100店に増やす計画だ。ココイチが有する味のカスタマイズ化と豊富なトッピングを強みに、カレーの発祥地でもこの提供価値が現地でも受け入れられているようだ。⽇本国内の出店余地が狭まる中、経済成⻑する市場に活路を見出すとのことである。100店以上の出店は、インド全体の経済成⻑と外食文化の浸透でけっして実現不可能な数値目標ではないようだ。現地で親しまれるカレーとは異なる⽇本式のカレーを提供する。このカレーはインド料理に幅広く使用されるスパイスを原材料としており、現地の⾷⽂化との親和性も⾼いと⾒込む。現在の店舗も利用客からは「ゆっくり時間をかけて楽しめる店」と評価されており、日本のようにハレの場での利用が浸透しつつあるようだ。ココイチならではの様々なトッピングや⾟さなどを選べる柔軟性とトッピングも鶏⾁や野菜などを中心に揃えており、特にチキンカツを使った商品が⼈気で、約4割のお客さんが注⽂するとのことだ。⽇本国内には出店余地の開拓が困難となっており、近年の新規出店は年10店ほどと出店を控えている状態である。世界最⼤のカレー専門チェーンとしてギネス世界記録に認定されたチェーン店が、その地位を維持するためには海外での展開強化が⽋かせないと判断。インドと共に⽶国への出店も増やし現在の12店舗から北米を中心に50店舗へ増やす計画も立てているようだ。
今後のココイチはどうなるか!
ココイチはカレー市場では脅威となるライバルが存在せず、追随者に圧倒的な差をつけて首位の座に君臨している。値上げで高くなったと実感しながらも、ココイチのカレーが食べたいというコアユーザーは多い。大概のお客さんはカレーだけでは物足りないから、トッピングやサラダを追加するので、今では平均客単価が1,200円を超えている。その結果、高くなったというイメージが定着したようだ。創業50年が過ぎ、カレーはココイチといったヘビーユーザーは多くいるが客層の世代交代はできているかも懸念される。
運営元の壱番屋は成長する海外市場の開拓や多業態戦略で収益機会の最大化を図っている。消費者の多様なニーズに対応するには、それぞれの市場に適した業態を投入しなければ機会損失が生じることもあり、昨今の外食大手は多業態戦略を推進する傾向である。経営資源の分散はコングロマリット・ディスカウント状態にはなるが、リスク分散にはなるだろう。
飲食業は開業しやすいが廃業率も高く、市場の新陳代謝が活発だ。約半数が2年以内に廃業し、10年後の生存率は1割程度である。トレンドに大きく左右され業態の陳腐化サイクルも早いのが業界特性で、次々と新たなコンセプトの店が出現してくる。そういった経営環境の中で、ココイチの事業継続率は9割と高い。その継続できる要因は商品面と運営面に優位性があることだろう。しかし値上げ後、客数が減少しているのも事実であり、価格も含めた顧客提供価値の向上が求められる。顧客ロイヤリティのさらなる向上と、顧客基盤の盤石化も必須であろう。