中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

食べ放題・飲み放題の店はどうやって儲けるのか?

お客様から、「食べ放題飲み放題の店は何でやっていけるのか」とよく質問を受ける。たぶん、たくさん食べて飲んだ人はそう思うであろうし、その光景を見た周りのお客さんも同様であろう。

私が焼肉店を経営していた時、最も儲かる商品と言えば、「食べ放題・飲み放題プラン」であった。単品メニューで高額商品の和牛の特選ロースやカルビもあったが、高いから一般人ではなかなか注文しにくく、商品回転率が低ので在庫管理に苦労したものである。高級和牛肉は売価も高いが仕入れ値も高く原価率が高い。もちろん売価が高いから粗利高はけっこうあるが、肉を捌くのに職人が必要となり、人件費も高くなる。一方で、食べ放題に関しては捌くのが容易でアルバイトでも十分に対応ができる。商品の回転率も高く、その結果、肉も新鮮で品質が高いから店にとってもお客様にとっても相互に利益があり、店としては力を入れたい商品である。

食べ放題に注文が殺到すると仕込みや段取りなど作業がやりやすく、効率性の基本である標準化・単純化・専門化が実現できる。未熟で人件費が安いアルバイトでも習熟度合いが高まり労働生産性も向上するので、費用対効果の高い商品の代表的存在であった。今は、各店の競争が激しくなりメニューが多品目化しており、若干オペレーションが煩雑化しているようだが、それでも食材の共通化や半加工商品化による食べ放題メニューの増加で品数が豊富な割には在庫と作業負担を軽減できているようである。

 

またビールやその他食材の出庫数が高まれば仕入れ先と有利な条件が結べる事が多く、原価低減にもつながる。特にビールなどの販売奨励金(リベート)は相当に大きかった。食べ放題の内容でも、原価10%の商品もあれば70%の商品もあり、うまく低原価商品を推奨販売させれば、標準原価である35%を維持できるものである。

私の経験上、食べ放題・飲み放題の場合、大概のお客さんはどちらかに偏るものである。食べる人・飲む人とどちらかであり、両刀遣いは滅多にいないだろう。おられても大したことはなく、そういうお客さんの出現には、店もそれ相当の対策を講じており、やられっぱなしではなく、脂身を増やしたりと追加点数を抑制する対策が講じれる店もあるようだ。

大相撲の大阪春場所で、タニマチが関取を連れてきた時でも損はしなかった。もちろん、体育会系の大学生が食べる気満々で来店した時は、確かに警戒はしたものではあったが、それでも損はせず、逆に店を賑やかにして頂き「ありがとう」といったものである。いい広告宣伝費だと思った。

料理は加工する手間や仕込みが必要なので、人件費も考えながら原価設定するものだが、飲料は殆ど手間がいらないので高めになりがちだ。瓶ビールなどは栓を抜くだけ、生ビールやチューハイはサーバーから注ぐだけなので理解できるだろう。飲食店の経費管理は割合が高いFLコスト(原価と人件費)を重視する。大概が60%内に抑制するのが基本だが、業態の特性によりこの2つの経費の構成は変わってくる。

飲食店経営では、店を回さねばという使命感から自転車操業の店もある。そういう店によれば、資金繰りが苦しく原価が圧迫しても、目の前の現金を回すことを重視するからだ。業者さんへの支払いが翌月払いで日々の売上現金が先に入金されるといった回転差資金をうまく活用すれば、日々の運営資金は確保されていることになり、現金商売が中心の飲食店ならばできることであろう。支払いより売上入金が先だから、支払いまで現金をストックして何とか耐え忍べるからだ。でも、お金が回っているうちは店も存続できるが、ずっと赤字が続けば当然に限界があるので、やはり損益管理と資金管理は両立させねばならない。最近はキャッシュレスの流れが加速し(中国はスマホ決済比率が86.0%だから、日本も追いつけと必死)、そういう商売が難しくなってきているので特に資金繰りには要注意である。

 

 

(最後に)

最近の飲食店は、円安・物価高・人手不足など店を取り巻く外部環境には逆風が吹いている。特に輸入食材に依存する外食業界にとって、中国など富裕層の増大で資源争奪戦による買い負け・円安による原材料高・物流コストの増大は経営に大きな影響を及ぼしており、経営資源の脆弱な飲食店は廃業を余儀なくされている。

また、日本は外食慣れした人が多く、品質に対する目が厳しいからコスパの評価も手厳しい。昔は情報量も店の方が優位だったので、情報格差から店側が主導権を握り料理の価格や内容などを決め客は出された料理を食べ請求された代金を支払うのみだった。だからある意味、店側も儲かっていたところがある。しかし今は、簡単にグルメ情報を検索できるなど、ネットなどを通じて客の情報量が多くなり、店側の優位性がなくなりつつあるからやりにくい。情報武装したお客様への対応は簡単ではなく、それらが結果として店側が楽して利益を確保する機会が減り、飲食店の営業利益の低下を招いている。



加えて、店に対して客が不満に感じたらSNSですぐに発信し、店側が叩かれるケースが増えている。昔は料理撮影は禁止だったが、インスタ映えの時代にそんな事を言ったら笑われ顧客は二度と来ない。もちろん料理は目で食べるものでもあるが、店によっては味よりも見栄えを重視している店もあるからおかしい。他店の写真をSNSで見て真似する店も多く、模倣料理が増え、個性がなく差別化する事も難しくて大変である。

そういったように、外食を取り巻く環境は大きく変化している中で、コロナによるライフスタイルの変化もあって飲食店の経営はより難しくなっている。単にいいものをリーズナブルな価格で提供していたら繁盛店になる訳でもない。これら外部環境の変化及び顧客ニーズの変化に、迅速かつ柔軟に適合できた店が競争を制し、存続できるのである。