中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

経営に失敗し地獄を見た社長(上)

長年勤務していた印刷会社で技術・経験・ノウハウを蓄積し、51歳の時に従業員一人引き連れスピンオフして創業した印刷会社社長。市場の成長や取引先、顧客にも恵まれ、飛ぶ鳥を落とす勢いで業況拡大を実現し、いつの間にか従業員35人、年商6億円の会社の社長になった。

 

 

メインバンクT銀行からも優良企業待遇で良好な関係構築ができて、毎日のように担当者が会社を訪れ借入を勧めたり、社長自身に投資話を持ち掛けたりとべったりであった。銀行との関係強化で強気になった社長は、イケイケどんどんの経営姿勢で、売上を更に伸ばしていったのである。更なる関係強化でT銀行から経理部長も受け入れ金庫番、且つ、メインバンクとのパイプ役としての役割を担わせることになった。

 

 

前の会社から引き連れた従業員を専務として事業を任せ、自らは対外的な活動に専念すると共に、中長期的視野に基づいたビジョンや戦略を策定したり、重要事項の最終的意思決定をするといった社長業をそつなくこなしていった。

 

事業意欲は旺盛でノンコアビジネスとして、アパレルショップを開店させたりと、本業は専務任せで、戦略レベルで会社の成長発展に時間を費やす日々であったようである。

社長には双子の弟がおり、その弟の紹介である窮地に追い込まれている同業者を救済することとなった。財務的に余裕があり、顧問弁護士と顧問税理士と相談の上、その会社を買収して自社と経営統合することとなった。とにかく勢いがあり、貪欲な事業の拡大意欲が、買収して事業規模拡大に走らせたのであろう。

 

債務超過の会社ではあったが、誰もが知る超優良企業との取引口座があり、そこに大きな会社としての潜在能力と成長の余地を感じたのであろう。買収価格は帳簿に載っている6000万の借金を肩代わりするだけなので、資金的余裕のある社長にとってはお得な買い物と思っていたらしい。

 

買収後、時間をかけて本社になる自分の会社との統合する計画で暫くは自分が100%の株を保有する兄弟会社にし、被買収会社の社長はそのまま任せていたのである。しかし一か月後、その社長は行方不明となり、また多額の簿外債務も発覚し、統合前に会社を整理することとなってしまったのである。

最初から騙すつもりだったのではないかと悔しがる社長。紹介者の弟は責任を取って何かをすることもなく謝罪もなかったらしい。

 

当時の社長は会社に財務的余裕があり、個人としても不動産を買いまくる等の金銭感覚で6000万の損失は、次で稼いだらいいと楽観的に考え、引きずることもなくあっさりしたものであったらしい。

 

勢いある会社の社長に陥りがちな心の隙間ができて、そこにうまく入られたのであろう。

 

早く忘れてその損失を取り戻そうと更なる事業拡大戦略を策定した。これはパートナーであるメインバンクのT銀行の勧めでもある。T銀行は優良貸出先でもある同社に積極的にに設備投資を勧め借入するようにしつこく言ってきた。

 

同銀行から出向で経理部長になっている人物も、しきりに都合のいい財務的裏付けを示し融資をするように助言した。そもそも財務知識に乏しい社長は全幅の信頼を寄せているT銀行出身の経理部長に安心しきって任せっきりでハンコを押すだけの役割だったらしい。

 

財務知識に乏しい社長もさすがに感覚的に業績が改善しない現状打開に向け、思い切った設備投資を実行して、競合他社に打ち勝つ方針を決めた。貸し出すT銀行も好況時の金余りで大量に購入した不動産を担保に入れてもらえるからとどんどん金を貸し付けてくれたようだ。

 

 

その時は後に訪れる不幸に気づかないでいる。・・・・・続く