昔とは違い今はM&A(合併・買収)に抵抗感がなくなっている日本社会。経営者の罪悪感もなくなり、今や経営戦略の一環や事業承継時の承継先など積極的に活用している。
売り手は、事業承継や資金調達、コア事業への集中、自社の生き残りを目的としてM&Aを戦略的に実行する、一方で、買い手は周辺事業の強化など事業規模の拡大や新分野進出を目的として、M&Aを戦略的に実施する。
中小企業は、事業承継問題を解決する為にM&Aを実施している。高齢化や職業選択の多様化により、息子など親族が後継者を敬遠する傾向にあり、多くの中小企業が後継者不足に悩んでいる。
会社を共に支えてきた番頭や優秀な従業員に事業を承継させるには、譲渡資金の準備などハードルが高く、外部から社長を招聘するのも現実的には難しいのが実情である。
今までは後継者不足により事業承継が困難になると会社を廃業する選択肢しかなかった。しかし、雇用の喪失やこれまで培ってきたノウハウ・技術を失う事は日本経済の大きな損失である。
昔、500万社もあった中小企業も、今や358万社(2016年)と激減している。黒字経営なのに後継者不在の為に廃業せざるを得ないのはあまりにも勿体ない。が無くなることは、経営者にとって残念な事態だ。
また、従業員や取引先にも大きな迷惑がかかる。
加えて、日本の経済を支える中小企業が減っていくことは、国としても大きな損失だ。
M&Aには「合併」と「買収」に分けられる。通常は「買収」で株式を取得し子会社化した上で徐々に経営統合していく手法が取られる。事業譲渡は欲しいものだけ買い手が取得できる一種の売買契約である。
手間はかかるが簿外債務などややこしい問題は回避できるメリットがある。売り手側は優先度の低い事業を売却することで、獲得した資金や浮いた経営資源を、主力事業に投下可能である。一方で買い手側にも、欲しい事業のみを買収出来るメリットがある。
但し、事業譲渡には「手続きが面倒」という大きなデメリットがあるので要注意だ。
二つ以上の会社が一つになる「合併」は、会社を一つにする際に、企業文化の統合、待遇の違いを一つにする人事労務システムの統合や簿外債務の存在などで円滑に統合することが困難である。
最近は、持ち株会社を設立してその傘下に置き、時間をかけて統合する手法も増えているが、買収の最大のメリットである「時間を買う」を享受できない点が若干の問題だ。
M&Aのメリット・デメリットまとめてみると、
⑴ 売り手のメリット
①事業承継問題解決
創業者の後継者がいないという後継者不足問題が実在する。子供が既に安定した生活を送っており、それを捨ててまで家業を継ぐ気がない。
幼いころから家庭を犠牲にして仕事一筋で会社と家庭を守ってきた父親に感謝はするが、自分はそこまでできないという息子も多い。また少子化でそもそも継がせる子供がいないのも現実。
M&Aを活用し、良い買い手に譲渡した方が、廃業よりも資金を多く得られる可能性も高く、技術やノウハウは無駄にならない上に、従業員の雇用も確保できるため、更に身内では限定される後継者の選定も資質・能力を中心に幅広い選択肢の中から選択できるのも大きいメリットである。
②事業や会社の現金化(ハッピーリタイアメントも含む)
会社の中にコア事業とは無関係の重要性が低い事業が存在していたり、今すぐ現金が必要な時、M&Aによって不必要事業や会社の売却による現金化をする選択肢がある。
売却によって、その事業から将来にわたって期待できる利益をまとめて得ることが可能である。まとまった現金を獲得することで、他の重要事業に投資できる。
また経営者もまとまった現金獲得でハッピー・リタイアメントとなる。
⑵ 買い手のメリット
①経営戦略としてのM&A
市場環境の変化が目まぐるしい現在、競争戦略もスピード重視であり、環境変化に迅速に適合できない企業は競争力が低下する。
市場で勝ち残るために、自社で一から商品や事業を創出していたのでは強豪田谷に後れをとってしまう。
その為には、既に事業展開している企業を買収する方が、手っ取り早く時間を節約できる。また新分野に進出する場合は不安定要素が大きいのでリスクがあるが、既に事業展開している企業を買収すれば、実績もあるのでリスクも低減できることになる。
②M&Aによるシナジー効果
自社の既存事業とのシナジー効果が発揮できて企業価値を高められる。相互補完による売上・共通コストの削減等によるシナジー効果は大きい。
自社事業とのシナジー効果が高い事業の買収戦略により、利益を何倍にも向上させることも可能だ。
⑶売り手のデメリット
①従業員のモチベーション低下
M&Aにより他社から買収されると、労働条件や社風が変わる可能性が高い。今までのような仕事のスタイルから新たなスタイルへの転換を促され、ストレスを感じて離職する従業員が出てくる可能性がある。
中小企業では、社長の人柄に惚れ込みついてきている従業員も多く、社長が変わればその会社にいる必要を感じなくなり離職する人もいる。また環境の変化により、従業員のモチベーションが下がるリスクもM&Aの大きなデメリットである。
②売却先が見つからず断念するケースもある
必ずしも売却先が見つかるとは限りない。売却の噂ばかり先走りすることも懸念される。きちんと秘密保持契約を仲介会社と締結しているのに、社長自らが身近な人間に喋ってしまうことから広がることが多い。
⑷買い手のデメリット
①簿外債務や偶発債務
M&Aの成立後に、簿外債務や偶発債務が発生する可能性がある。それらを警戒して事業譲渡を選択するケースもあるが、それはそれで手間だと株式譲渡を選択した結果、こういう落とし穴に陥ることもある。
事業・法務・財務のデューデリジェンスを徹底的に実施すると共に売手の経営者に「表明保証」をしてもらわないといけない。
②シナジー効果が得られない
買い手側は、自社事業とのシナジー効果を期待してM&Aを実行するが、統合後の戦略シナリオが甘く、シナジー効果が出ないことがある。
シナジー効果が生じなかった場合、M&Aにかかった高額な費用が無駄になるし、のれんの償却費や減損処理によって、さらに費用がかかってしまうデメリットも起こる。
だから高い買い物をする前は事前の調査と統合後の実現可能性の高いシナリオを描いた上で、慎重な判断を使用。「後悔先に立たず」である。
<まとめ>
M&Aはいまや当たり前の経営戦略である。会社や事業を買うという事は八百屋さんで野菜を買うのとは違う。試行錯誤的な安易な買収は会社の将来を犠牲にする。それは会社の社会的責任の一つでもある雇用も犠牲にすることである。
会社を譲渡する際、社長面談で断られる中小企業がある。それは社長の人柄や人間としての信頼性が原因である。腹を割った話ができない社長とは大きな取引はできない。
大切な従業員とその家族の人生もかかっているからだ。会社を買って欲しいなら、見栄を捨てる勇気と全てを開示する覚悟が必要だろう。精緻な買収監査でも分からない点もあるが、社長を見ればその会社の良し悪しが分かる。
社長も大事な会社を他人に譲りたいなら、誰に対しても正直な姿勢で交渉に臨むことが必要である。その際はもちろん人に見られたくない恥部も正直に話すことが必要だ。後でこんなはずではなかったと言われたくないはずである。
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