中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

M&Aをうまく活用しよう!

以前なら、「会社を買収して事業基盤を盤石にしたい」と希望する社長は中小企業でも多く、景気の先行きが良ければ、この気持ちは更に強くなったものである。社員が一丸になって一から新規事業を起こすのは社内の活性化の上でもいいが、乏しい経営資源からはそう簡単にはいかない。

 

 

会社売却とバイアウト実務のすべて  実際のプロセスからスキームの特徴、企業価値評価まで

会社売却とバイアウト実務のすべて 実際のプロセスからスキームの特徴、企業価値評価まで

  • 作者:宮崎 淳平
  • 出版社/メーカー: 日本実業出版社
  • 発売日: 2018/10/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
バリュエーションの教科書―企業価値・M&Aの本質と実務

バリュエーションの教科書―企業価値・M&Aの本質と実務

  • 作者:森生 明
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/05/27
  • メディア: Kindle版
 

 

その為、既に実績のある会社を買収することは時間を買うという事とその実績からリスク低減として最適な選択であろう。一方で、事業の衰退化や後継者不在による先行き不安から、出口の見えない中小企業も増えている。自らが創業し、手塩にかけて育てた我が子のような会社を、売却せざる負えない社長は辛いもの。もちろん先祖代々続いた家業を自分の代で幕を閉じるのも同じく辛いものだ。

 

私の顧客で95年の歴史がある老舗酒屋が消費税引き上げ前の9月30日に廃業された。後処理の一切を受任しているが、この廃業は毎日新聞の一面にも取り上げられ、ある政党の国会議員も国会で取り上げるからと事情を聞きに来られるなど話題になった店である。

 

この老舗酒店の廃業は消費税増税が原因だと周りが騒ぎ立てていたが、実はそれは単に廃業するきっかけの一つで、真因は経営者の高齢化(85歳)が進み、後継者がいないからである。

 

 

 

また先日、創業大正8年という老舗珈琲店で現経営者に話を聞くことができた。この経営者には息子さんがおられ、私が「後継者がおられるから安心ですね」と言うと、「息子には好きな道を選択させます。継ぐもよし、他で就職するもよし、と考えています。私がこの会社を継ぐときの条件でそれを先代に伝え、了承されたから私が継いだのです。息子には好きな人生を歩ませたいのが私の気持ちです。」と確固たる自分の考えを利かせてもらった。

 

会社を売却してハッピーリタイアメントをしたいと思っている社長も、いざ会社を売るとなったら、「本当に売っていいのだろうか」と迷うものであろう。ましてや従業員がいれば従業員達の今後が心配になるものだ。

 

経営者が売却で重視する点は、売価価格、従業員達の処遇、技術はノウハウの活用の仕方、自社ブランドを残せるか、等でやはり長年支えてくれた従業員達の事が気になるものである。自分さえ良ければいいという話ではないのが会社売却である。

 

経営者が会社を売却しようと考える理由としては、

  1. 後継者が不在で事業存続が難しい。
  2. 既存事業には収益性・成長性・将来性が低く、明るい市場の展望が見いだせない。
  3. やりたいことができて、その新規事業を展開したいから。
  4. 業績が悪化し自分の力では再生できないと感じた時。
  5. 自分の身の丈以上に会社が肥大化したから、ダウンサイジングしたいと思ったから。

等が要因となっているようだ。

 

会社の売買には相当な熟慮が必要で慎重に決断しなければ後悔することとなる。また事業面・税務面・法務面と高度な知識と煩雑な手続きが必要である。賢い売買の仕方はその道の専門家にお任せするのが普通だが、自分が交渉で優位に立てるような武器は持っておいた方がいい。それらを認識したうえで準備に入ろう。

 

 

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参考までにM&Aのメリット・デメリットをまとめてみると

 

売り手のメリット

 

事業承継問題の解決

創業者の後継者がいないという後継者不足問題が実在する。子供が既に安定した生活を送っており、それを捨ててまで家業を継ぐ気がない。

 

幼いころから家庭を犠牲にして仕事一筋で会社と家庭を守ってきた父親に感謝はするが、自分はそこまでできないという息子も多い。また少子化でそもそも継がせる子供がいないのも現実。

M&Aを活用し、良い買い手に譲渡した方が、廃業よりも資金を多く得られる可能性も高く、技術やノウハウは無駄にならない上に、従業員の雇用も確保できるため、更に身内では限定される後継者の選定も資質・能力を中心に幅広い選択肢の中から選択できるのも大きいメリットである。

事業や会社の現金化(ハッピーリタイアメントも含む)

会社の中にコア事業とは無関係の重要性が低い事業が存在していたり、今すぐ現金が必要な時、M&Aによって不必要事業や会社の売却による現金化をする選択肢がある。

売却によって、その事業から将来にわたって期待できる利益をまとめて得ることが可能である。まとまった現金を獲得することで、他の重要事業に投資できる。

 

また経営者もまとまった現金獲得でハッピー・リタイアメントとなる。

 

買い手のメリット

 

①経営戦略としてのM&A(時間を買う。損益予測を立てやすい)

市場環境の変化が目まぐるしい現在、競争戦略もスピード重視であり、環境変化に迅速に適合できない企業は競争力が低下する。

 

市場で勝ち残るために、自社で一から商品や事業を創出していたのでは強豪田谷に後れをとってしまう。

 

その為には、既に事業展開している企業を買収する方が、手っ取り早く時間を節約できる。また新分野に進出する場合は不安定要素が大きいのでリスクがあるが、既に事業展開している企業を買収すれば、実績もあるのでリスクも低減できることになる。

 

 

②M&Aによるシナジー効果(地域を補完、間接コストのシナジーなど)

 

自社の既存事業とのシナジー効果が発揮できて企業価値を高められる。総合補完による売上・共通コストの削減等によるシナジー効果は大きい。

 

自社事業とのシナジー効果が高い事業の買収戦略により、利益を何倍にも向上させることも可能だ。

 

売り手のデメリット

従業員のモチベーション低下

M&Aにより他社から買収されると、労働条件や社風が変わる可能性が高い。今までのような仕事のスタイルから新たなスタイルへの転換を促され、ストレスを感じて離職する従業員が出てくる可能性がある。

 

中小企業では、社長の人柄に惚れ込みついてきている従業員も多く、社長が変わればその会社にいる必要を感じなくなり離職する人もいる。また環境の変化により、従業員のモチベーションが下がるリスクもM&Aの大きなデメリットである。

 

売却先が見つからず断念するケースもある

 

必ずしも売却先が見つかるとは限りない。売却の噂ばかり先走りすることも懸念される。きちんと秘密保持契約を仲介会社と締結しているのに、社長自らが身近な人間に喋ってしまうことから広がることが多い。

 

 

 

買い手のデメリット

 

簿外債務や偶発債務

 

M&Aの成立後に、簿外債務や偶発債務が発生する可能性がある。それらを警戒して事業譲渡を選択するケースもあるが、それはそれで手間だと株式譲渡を選択した結果、こういう落とし穴に陥ることもある。

事業・法務・財務のデューデリジェンスを徹底的に実施すると共に売手の経営者に「表明保証」をしてもらわないといけない。

 

シナジー効果が得られない

 

買い手側は、自社事業とのシナジー効果を期待してM&Aを実行するが、統合後の戦略シナリオが甘く、シナジー効果が出ないことがある。

シナジー効果が生じなかった場合、M&Aにかかった高額な費用が無駄になるし、のれんの償却費や減損処理によって、さらに費用がかかってしまうデメリットも起こる。だから高い買い物をする前は事前の調査と統合後の実現可能性の高いシナリオを描いた上で、慎重な判断をしよう。「後悔先に立たず」である。

 

・・・・・・以上です。