今、相続相談に乗らさせて頂いている80歳代のご夫婦。先祖代々の土地と建物にお二人で住んでいるが、大きすぎて老夫婦には使い勝手が悪い。売却して駅近くのマンションを購入して引っ越しを検討中である。
全訂 新しい家族信託―遺言相続、後見に代替する信託の実際の活用法と文例―
- 作者: 遠藤英嗣
- 出版社/メーカー: 日本加除出版
- 発売日: 2019/06/10
- メディア: 単行本
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子供三人は、それぞれ独立しているが、末っ子は障害を持つ独身で一人暮らしをしている。思い入れはある家でも土地の価値しかなく、4階建ての店舗兼住宅は解体費用の負担が重い。
ある不動産会社に査定をしてもらったら想定以上に低い。思い出は金で評価されない現実である。しかし大きな家だけに毎月の費用が多く、ご主人は足も不自由で要介護3級。これからもこの家で生活するのは肉体的・精神的な負担が大きい。
上の子供さん二人は(長男・長女)それぞれ自宅を購入して離れたところで暮らしており、障害を持つ次男さんも勤務先に近いマンションを借りて住んでいるので、お子さんたちも思い入れはあるがこの家を売却することには賛成のようだ。
これから後何年生きられるかは分からないが、今からマンションに移ったほうがいいか、苦渋の選択を強いられている。思い出の詰まった家だけあって、決断に逡巡するのはよく分かる。
またご自分の死後、障害を持つ次男さんのことが、心配との事も悩んでおられた。私の方から、「ご主人も奥さんも年齢(ご主人85歳、奥さん83歳)を考えたら、この先、認知症になる恐れがあり、不動産の名義がご主人のままなら、もし認知症になったら大変です。80歳代の4人に1人は認知症になるという数字も出ています。認知症になると、法律行為ができなくなるから、不動産の処分すらできなくなります。また人間いつ何が起こるか分かりません。自分が何かあった時のことを考え残された人が気の毒なことにならないようにもしましょう。そういう不測の事態に備えて事前の対策を講じましょう」と申し上げた。
成年後見人制度の説明をして、申し立てから時間を要することや処分には家裁の許可が必要など、簡単には不動産や他の資産の処分ができない事も付け加えながら、解決策として、「家族信託」のことも検討されたら、いかがかともお話しした。ご主人も、最近、物忘れが激しいから今後のことが不安だということで、必死に聞いておられた。
「家族信託」を簡単に説明すると、
息子さんが障害をお持ちそれが心配であれば、ご主人を委託者・第一受益者として、長男を受託者として信託契約を結ぶ。そして、もしご主人が亡くなれば奥さんと次男さんを第二受益者、その奥さんが亡くなれば、次男さんを第三受益者に指名して、受託者の長男が責任を持って財産管理する仕組みを確立するようにすればいい。
信託で受益者がご主人なので負担が大きい贈与税もかからず、ご主人が亡くなられたときに相続税で処理をすればいいのである。
ご主人の相続が発生して、相続財産を均等で分けたとしても、障害を持つ次男さんでは管理ができないと心配するなら、長男さんにしっかり管理してもらい支援していく「家族信託」が最適である。もしその長男が心配なら専門家を「信託監督員」に選定していくことも検討したらいいであろう。
詳しくは「家族信託」に強い司法書士にお任せするが、この制度は遺言と成年後見人の弱点を補った制度で、今後多くの人に浸透すればいいと改めて思った。
もちろん、健康寿命をさらに伸ばすように、普段の健康管理に気をつけていただくことが一番いいと思うのは当然です。