30歳で独立し29年、自分もそろそろ還暦である60歳になる。最近、病気がちの自分に不安を感じ、そろそろ社長の座を息子に譲ろうと思っていた。普段こんな話をしていなかったが、息子だから当然考えてくれているだろうと思い、思い切ってこの度、会社の後継ぎのことで話をした。
事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック M&A契約書式編
- 作者: 塩野誠,宮下和昌
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/03/30
- メディア: 単行本
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しかし、説得もむなしく、継いでくれるものだと期待していた息子に断られてしまった。考えてみれば、息子も結婚し、一流企業の責任あるポストに就いているので、今の安定した生活を手放したくないだろうなと思い、無理に継がせるのは諦めた。
会社を経営する以上、その会社の最後をどうするのか、常に考えておかなければいけなかったがそれを怠っていた。
社長には、M&Aで会社を譲渡する発想もなかったのも事実だ。まだ余力があるうちに、自分ではできなかった更なる事業の成長発展をしてもらえる会社や個人に譲るのもその会社にとっては得策である。従業員も顧客や仕入れ先も安心するだろう。
熟慮に熟慮を重ね、会社を売却することを決意した。メインバンクや商工会議所に相談しM&A仲介会社にも売却希望の登録をして個別相談も行った。そして秘密保持契約を締結し具体的な相談をして費用なども確認した。内容を確認した上で、仲介会社とアドバイザリー契約を締結し、詳細な企業情報資料を提出してマッチング(買い手探し)をしてもらった。
暫くして、買手希望者が現れいよいよ会社を見てもらう運びとなった。そして社長同士の面談をすることとなった。これは一種のお見合いであり、双方とも最初は緊張を隠せなかったが、そこはお互いが社長なので、経営に関する苦労話をすることで、徐々に口も滑らかになり話が弾んできた。
しかし売手の社長としては、買手社長にうまく自社の魅力を伝えられず、またどこかで売却することの迷いがあったのか、優柔不断な態度の為にそれから先は、話がなかなか進まなかった。売手社長も「その内に決まるだろう」と、先送りをしながらのんびり構えていたら、業績低下により財務状態が悪化してきた。
買う気満々だった買手社長も最初は「長年やってこられた我が子のような会社だから相当な思いれがあるのは当然で、中々決断できないものです。逆にビジネスライクに売却を進める社長の方がこちらとしては嫌な感じですよ。」とこちらの気持ちを理解されていた。
だが、あまりにも時間がかかりその間に想像を絶する位、業績が低下してきたので買手希望者もだんだん話が後ろ向きになってきたのである。
それでも、業績が下がって譲渡金額が下がれば、投資効率が向上するから判断に迷っておられていたようである。でも現況を分析し、買収後のシナジー効果などによる将来収益を予想され、買収する価値なしと決断されたようでこの話が消えてしまった。
今回の経験から、一度売却すると決めたら迷うことなく話を進める事。そうしないと相手に失礼になる。また自社を高値売却したければ、会社の磨き上げ(特に知的・無形資産)を徹底し、決断したらブレない事だ。
M&Aも「儲かっている時が売りのタイミング」とは言う時もあるが、それはそれで人間には欲があるので、売る決断をするのは難しいものだ。会社や市場の成長性や将来性を予見するのは難しく、いつが売るタイミングなのか決断するのは困難である。
最近では10人未満の小さな企業でもM&Aを活用して、企業の存続発展を目指すようになってきている。昔のように「会社を売る。会社を買うのは悪だ」というイメージは払拭されているようだ。
身近になったM&Aで、事業承継はもちろんの事、新規事業開発、新市場開拓などの経営革新にも取り組み、企業の成長発展を実現する時代になってきている。
中小企業も自社の経営戦略を見直す際、M&Aも選択肢の一つに入れるようにしなければ。