中小企業診断士/行政書士 中村事務所

飲食店支援専門の中小企業診断士行政書士です。事業承継の支援も致します。

会社は金で買えても、働く人の気持ちは金では買えない!

M&A(合併と買収)。金で会社は買えても、人や組織文化は金では買えない。今はどこも人手不足で、募集をかけても集まらないのが実情である。その人手不足の解消の為、人が豊富な企業を買収して事業を継続しようとする会社もある。M&Aの目的が新分野進出や既存事業の強化など、本来のM&Aの目的と異なってきているのだ。特に労働集約産業はこういった傾向があるようだ。

 

 

小説でわかる名著『経営者の条件』 人生を変えるドラッカー―――自分をマネジメントする究極の方法

小説でわかる名著『経営者の条件』 人生を変えるドラッカー―――自分をマネジメントする究極の方法

 

 

 

その人手不足解消の為の企業買収も、肝心の人、特にキーパーソンに逃げられたら空箱を買ったと同様である。そうならぬように、契約締結時にはそれら人の確実な移転についての条項を必ず加えることになる。だがそうはいっても人の気持ちや感情は契約で拘束しようが、その人次第である。

 

人にはそれぞれ職業選択に自由があり、会社の買い手と売り手の一方的な売買契約でそのキーパーソンや従業員達を拘束することは不可能だ。もし移転が一旦はうまくいっても、そのキーパーソン達が意欲を持って能力を発揮し業績向上に貢献するかどうかは不確実である。

 

 

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

 
ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則

ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則

 

 

そういったことを回避する為には、相手方を尊重した誠意ある対応が必要である。売手の社長を「はい、お疲れ様でした」と退場を促すのではなく、1年~2年の期間は会長職と言ったポストを用意し、キーパーソンやその他の従業員が抵抗なく、新会社に移れるような支援が必要である。

 

 

 

ある程度の権限も委譲し、前会社と変わらない組織の一面を維持することも、激変緩和策としては有効である。その際には、会長用の豪華な執務室など、「三顧の礼」でお迎えするようにしてあげると、会長と共に来る従業員達は安心して働くことができる。そしてみんなが買い手企業の為に頑張ろうとしてくれる筈である。

 

 

またせっかく来てくれた従業員達にすぐに変化や結果を求めぬようにしなければならない。只でさえ不安な心理状態で来ているのに心理的圧力をかけて負担を強いるようなことをしたら逆効果である。共通の価値観や行動様式といった時間をかけて作り上げる組織文化の融合に失敗したら何の意味もない。M&Aの失敗の90%はクロージング後の統合作業(PMI)にあると言われている。

 

 

 

M&Aは一から自社で創り上げるより、既にある会社を買収し、①時間を買う、②既に実績があるので不確実性を回避する、といった目的を重視するがあまり性急すぎる統合は命取りである。ある程度の時間をじっくりかけて人の気持ちを一つにした上で、一丸となった会社の姿勢を市場にアピールしなければならない。

 

にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
にほんブログ村  

にほんブログ村 士業ブログ 行政書士へ
にほんブログ村 

 

経営戦略=組織戦略である。どんなに素晴らしい設備や資金があっても、それを運用するのは人である。人が脳力を磨き意欲を持って会社の業績向上の為に貢献するかは人事労務システムを含めた組織戦略の良し悪しにかかっている

人の良し悪しに会社の成長は依存する。優秀な人材を確保するには「働き方改革」を実践し、待遇改善に努めなければいけない。待遇改善とは単に労働時間を短縮したり給料を上げることではない。これを勘違いしている社長は普段から従業員をモノ扱いをする人の証拠である。

 

確かに働く動機として金銭報酬を上げる人は多い。だがこれだけ恵まれた日本社会では金銭だけあれば幸せということはない。有能な人が働きがいを感じ、この会社の成長の為に自らを心血を注ぎたいという強い帰属意識を高めることも必要である。

 

受動型人間で構成される組織よりも、適度に皆が能動的に経営参加する組織の方が勢いがあるのは当然で、そういう組織文化や風土を醸成すれば、後は自然の流れで会社はいい方向に向かっていく。

 

仕事の失敗は指示を出した本人に責任がくる。責任を取りたくない人は自然と指示待ち人間になる。そういう受動型の人と自らがリスクを取って仕事をする能動型の人との間で人事評価の差がない会社は、能動的な人は去っていく。差をつけない画一的平等で良き社風を醸成する会社もあるが、基本は合理的公平な人事評価と適正な処遇である。

 

 

ドラッカーは、「誰が正しいかより何が正しいか」を考えられる人材が企業成長に不可欠だと言う。ただ残念ながら多くの組織では、「誰々の指示だから」「誰々がそう言っているから」という言葉が飛び交い、そこに「自分の意思」「想い」が込められないことが多い。特にマネジメント層がこのような思考にはまってしまう会社はダイナミズムを失ってしまう。有能な現場の社員は、現場でいきいきと議論し、顧客が求めていると感じるものを迅速に世の中に提供したいと強く願っている。 個々の想いとアイディアがぶつかりあって良い物が生まれるのが職場である。その本来の機能を失うと、有能な人ほどその会社で働く意欲を失ってしまう。「企業が衰退する最初の兆しは、意欲のある有能な人材に訴えるものを失うことである。」(ドラッカーより)