「時は金なり」というように時間も大切な経営資源である。だがM&Aでも時間を買う事を重視し過ぎて、性急な統合作業で失敗するように、時間に拘り過ぎるのは危険だ。お互いの強みを持ち寄った連携で、基本的な価値観を共有しても、歩む速度に違いがあると失敗するもの。

専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ! 事業承継フレームワーク
- 作者: 事業承継支援研究会
- 出版社/メーカー: ロギカ書房
- 発売日: 2018/12/06
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M&Aの70%は失敗に終わっていると言われるが、その失敗の原因の90%は統合作業にあるとされる。その中でも85%の割合で組織文化と風土の融合失敗が指摘されている。せっかくシナジー効果を期待して経営統合しようとしているのに、急ぎすぎてビジネスチャンスを失う事がないようにせねばならない。
M&Aといえば大企業同士がやるものといったイメージがあるが、いまや中小企業の方が動きが活発になっており、また必要になっている。
今、注目されているのは、中堅・小規模企業の後継者不足による廃業回避の為の事業承継M&Aである。「家業を継ぐのは長男」といった家督相続の時代は昔の話である。今は親族内承継ですら4割程度であり、親族外や外部招聘による事業承継も困難な為にM&Aに注目が集まっている。既に市場も発達しアドバイザー企業や仲介会社も乱立状態である。
親族内承継は少子化の流れもあるが、やはり息子には安定した仕事で幸せな生活をとの思いもあり、息子に後継ぎを任せない微妙な親心があるようで複雑である。
2025年には団塊世代がみんな後期高齢者となり、中小企業の平均引退年齢である70歳を超える中小企業経営者が約245万人となる。そのうち約半数の127万人が後継者未定となっており廃業の危機を控えた2025年問題となっている。
この問題を放置すればGDPで22兆円と650万人の雇用が失われ、日本経済は大きな打撃を受けることとなる。日本政府は、事業承継の課題解決にM&Aを活用する動きを加速させており、様々な支援機関や事業承継の円滑化に向けた法律や税務の後押しがされている。自社の事業存続に危機感を抱く経営者の多くもM&Aの検討に入っている。
また、現代の市場の多様化や急激な変化への対応策として、M&Aによる事業提携を選択する企業も多数見られる。M&Aは過去の負のイメージが払拭され、企業の幅広い課題解決策として、社会に受容されるようになったのである。
だがすでにある企業を買収することは、新品ではなく中古品を買い受けることになるので企業価値評価(事業・税務・法務)には気をつけないといけない。特にその中でも簿外債務には要注意である。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のこと。中小企業の簿外債務として考えられるのは、①未払いの残業代②回収が困難な売掛金③契約上の問題などである。
簿外債務でさらに問題となるのが、多額の損失の恐れのある偶発債務。偶発債務とは、現時点では顕在化していないものの、将来に何らかの原因で顕在化しうる債務のことだ。例えば、知り合いの会社の借入金の保証人になったとしたら、まだ債務は発生していないが、保証先の会社が借金を返済できなくなった場合、保証人が肩代わりしなければならなくなるという債務が発生することになる。偶発債務は、企業価値に大きな影響を与えるリスクがあるので企業評価の際に徹底したリサーチが必要。
次になんでもそうだが、M&Aにもメリット・デメリットがある。
(M&Aのメリット)
①他社への事業譲渡や経営権の委譲によって、独自のノウハウや販路などを活かしたまま経営を継続させられる。経営者側では廃業のコストを削減でき、従業員側では雇用継続がなされると同時に、新たな活躍の場が広げられる可能性がある。
②利益の上がらない事業を分割して譲渡するなど、「選択と集中」で本業の再生が図られる。
③新たな分野への進出により、既存事業とのシナジー効果が発揮される。
④企業競争力や市場支配力が強化され、シェア拡大の可能性が高まる。
(M&Aのデメリット)
①対外的なデメリットは、経営方針の変更により取引先に悪影響を与えるリスクがある。M&Aが実施された後に取引条件が変更されたり担当者が変更されたりすると、取引先からの反発を招き、契約を打ち切られる場合もあるため要注意。
②対内的なデメリットとして、組織の拡大により意思決定のスピードが遅れる、企業ガバナンスが弱体化する点などが挙げられる。合併に伴う異なる企業文化の融合に時間を要し、新たな運営体制の構築が遅れると、事業にマイナスの影響を及ぼす場合も。また、前述の簿外債務や偶発債務によって、事前に想定していなかった損失を被ることがある。
最後に、そもそも事業承継に関し、大企業と異なる中小企業の特性とは何だろうか。中小オーナー企業の事業承継(事業資産・経営権・知的資産などの承継)の大変さを理解しよう。
中小企業が「世襲で承継される事例が多い」というのは自然の流れであるが、一方で、
中小企業経営者が、後継者を選ぶ条件として「血縁・親戚関係」よりも「経営能力の優
秀さ」を重視している傾向は一貫している。 それならば、血縁にこだわらず役職員の中
から優秀な人を公平に選べばよいではないか、という疑問が湧くが、そうはいかない事
情がある。
中小企業においては一般に、会社の所有と経営が十分に分離されておらず、個人企業は無論のこと、会社企業であっても経営者に株式の過半が集中しているのが常態である。
この場合、優秀な役職員に「代表取締役社長」の席を譲っただけでは、全く事業承継にならない。単に、先代経営者が議決権を支配するオーナー、現経営者が雇われサラリーマン社長、という関係になるだけである。 その場合でも、先代(オーナー)が存命のうちは経営にあまり支障は生じないだろうが、先代が亡くなり株式の相続が発生した瞬間に問題が生ずる。
会社の株はオーナー一族の何人かに相続され、被相続人の意見が一致する保証はない上に、その会社の経営に何らの想い入れや愛着も持ち合わせていない可能性もある。 そこで中小企業経営者は、会社議決権(株式)の相続に伴う混乱を回避しようと思ったときは、後継者に「代表取締役社長」の席を譲ると同時に、自身の持株も譲る必要が出てくる。
持株を譲る方法は2つある。
〔1〕誰かに買わせるか、〔2〕子息、親族に相続させるかである。
〔 1〕誰かに買わせることを考えた場合、買い手は「会社の役職員」か「社外の第三者」の2つに1つとなる。経営陣が個人で自社(の事業部門)を買収して経営権を得ることをMBO(Management Buy Out)と言うが、通常の場合、役職員は自社を買収できるほどの資金を持っておらず、また金融機関から買収資金を調達できる当てもない。 そこで通常は、血縁関係にない自社の役職員を後継者とすることは難しいのである。
「承継アンケート」において、「事業売却を検討する」という者に対して具体的に考えている事業売却の方法を聞いてみても、「経営陣による会社買収(MBO)」との回答は6.7%に過ぎなかった。 ゆえに、子息・親族の後継者もおらず、社内に自社を買い取れる役職員もいない場合、他の会社に自社を買収・合併させる(M&A)か、社外の第三者に自社を買い取らせて経営者として入ってきてもらう(MBI:Management Buy In)というのも、事業承継の手段として有力な選択肢となり得るのである。(中小企業白書より)

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以上のように中小企業の事業承継もオーナー社長の相続を視野に入れて対策を講じるとなると、様々な利害関係者が絡んでくるので大変複雑になってくるものである。オーナー社長も自分の身に何かあってから、事業継続の対策を考えるのではなく、元気なうちに永続企業を目指した対策を講じましょう。